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社会科散策(政治)論述№17-国際法 [政治]

6-1 国際政治①-主権国家,国際法    

1.主権国家
 国家が対外的に独立を保つ権利を❶主権という。この主権の確立している国が独立国(主権国家)である。現在,地球上には,200 近い❷独立国がある。

❶主権には3つの意味がある。
 ①立法権・行政権・司法権を総称する統治権,②国家が対外的に独立を保つ権利,③国の政治のあり方を最終的に決める力または権威の3つ。主権国家という場合の主権は②の意味である

〔研究〕憲法前文第1段の「ここに主権が国民に存することを宣言し」にある主権とはいかなる意味か。 類題(愛光高平成27年度)
〔解答〕国の政治のあり方を最終的に決める力または権威という意味である。

❷世界の独立国家
 外務省の統計によると,196か国(2019年3月現在)。これは,現在,日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数。北朝鮮は国連に加盟しているが日本は承認していない。国連加盟国数は 193カ国。
 国家の主権(統治権‥上記①の意味)が及ぶ範囲を領域といい,領土,領海,領空からなる。海岸から12海里が領海とされ,領土・領海の上空の大気圏内が領空とされている。また,領海の外に排他的経済水域(EEZ)が設定され,海岸から200 海里以内では,その水域の水産資源・地下資源に対する管轄権が沿岸国に認められている。

※無害通行権について 類題(大阪教育大附属池田平成29年度)
 大阪教育大附属池田の問題は,選択問題の選択肢の一つとして問われたものである。中国の公船(軍艦含む)の領海・領空侵犯,接続水域への侵入が最近エスカレートしていることから,領海への無害通行権についても一応の理解は必要であろう。
⇒領海は,沿岸国の主権が及ぶ領域であるが,海上交通の便宜のため,「すべての国の船舶は,他国の領海において無害通行権を有する」(国連海洋法条約17条)という例外規定が存在する。無害通行とは,沿岸国の平和,秩序または安全を害さない通行をいう(同19条1項)。その無害性の判断については,19条2項に無害とはみなされない行為が列挙されている。例えば,武力の威嚇又は行使,軍事演習,情報収集,測量調査,汚染行為,漁獲行為など。また,通行の具体的な方法や沿岸国の権限についても別途規定が置かれている(18条2項,20条,21条,22条,24条,25条,26条)。
 軍艦にも商船と同様な無害通行権が認められるかについては諸国間に対立がみられる。軍艦の領海航行については事前許可を求める国もあるが,欧米先進国は船舶の種類ではなく通行の態様で無害性を判断すべきだとする。
 尚,領空のいわゆる無害飛行権については,1919年のパリ条約・1944年の国際民間航空条約で,各国に国家の排他的主権を認めている(無害飛行権は認められていない)。

2.国際法
 国際社会における国家間のルールが❶国際法で,その基礎を築いたのはオランダの❷グロチウスである。

❶国際法には,国際社会で広く行なわれている慣習を各国が法として認めた国際慣習法と,文書による国家間の約束である条約の2種類がある。
❷グロチウスはオランダの自然法の学者で,その著「諸国民の法」,「海洋自由論」,「戦争と平和の法」が国際法の起源とされている。彼は,「自然法の父」「国際法の父」と呼ばれている。
 しかしながら,国際社会には,各国の上位にたって国際法を実際に強制する権力がなく,国際法の実効性は国内法ほど強いものではない。強いてあげれば国際連合(国連)だが,現在の国連(安保理)は大国の思惑に大きく左右され,その問題解決能力は乏しい。


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社会科散策(政治)論述№16-地方自治 [政治]

5-4 統治機構④-地方自治

1.地方自治
 『❶地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,❷地方自治の本旨に基いて,法律でこれを定める』(92条)。

「地方公共団体」とは
 地方自治を行う都道府県や市町村を地方公共団体(地方自治体)という。地方公共団体には,おもな機関として首長と地方議会がおかれている。

〔研究〕東京特別区(23区)は地方公共団体か。
⇒最高裁はこれを否定したが,区長公選制の復活により地方公共団体に含める見解が多い。
⑴地方議会(議員の任期4年,被選挙権25歳以上)
 地方議会には,市町村議会と都道府県議会があり,それぞれ議員は住民の直接選挙によって選ばれる。地方議会のおもな仕事は,条例の制定・改正・廃止,予算の議決,決算の承認など。
※条例は「法律の範囲内」で制定できる(94条)。
 「法律の範囲内」については,憲法が法律事項としているものを条例で定めることができるか,法律と抵触・競合する場合はどうするかが問題となる。ここは,地方自治の考え方が反映されるが,自治体の事務については,地方自治の本旨を重視した解釈をすべきであろう。この点,最高裁は,「条例が法律に違反するかどうかを判断するには法律と条例の規制対象や規制文言を対比するだけでなく,それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較すべきである」と判示。

⑵首長(任期4年,被選挙権=知事30歳・市町村長25歳以上)
 首長は地方公共団体の執行機関で,市町村長と都道府県知事がそれにあたる。首長も住民の直接選挙で選ばれる。首長は,議会で決まったことを実行に移すほか,予算や条例案をつくって議会に提出したりする。また,地方行政の最高責任者として,役所の職員などの公務員を指揮・監督する。
 補助機関として,首長(知事・市町村長)を補佐する副知事・副市町村長,会計事務をつかさどる会計管理者が置かれている。

⑶首長と地方議会との関係
 首長と地方議会は,互いに独立しており,また,内閣のように議会から生まれるという関係にもない。そこで,首長制と呼ばれている。

〔研究〕首長制の特徴について述べよ。
〔解答〕①首長公選制,②首長の拒否権(再議請求),③議会の首長不信任決議,④首長の議会解散権がその特徴としてあげられる。
(解説)
 首長制は大統領制(①と②)と議院内閣制(③と④)をミックスした制度である。
⑷地方公共団体のしごと
 地方公共団体のしごとは,社会福祉,教育,生活環境の整備,廃棄物やゴミの処理など広範囲にわたる。地方公共団体の事務には,各自治体の事務である「自治事務」と,国(又は都道府県)の事務であるが,その執行が自治体(都道府県又は市町村)に委託された「法定受託事務」(例えば,戸籍事務・旅券の交付など)がある。 

「地方自治の本旨」とは
 地方の自治の本旨とは住民自治と団体自治の二つの要素を含む。住民自治とは地方の政治が住民の意思に基づいて行われること,団体自治とは地方の政治が地方公共団体みずからの意思と責任でなされるとことを意味する。この地方自治の本旨に反するような法律などは憲法違反として無効となる。

〔研究〕地方自治は『民主主義の学校』といわれているが,その意味を簡潔に答えなさい。
〔解答〕民主主義の精神は,地域社会や身のまわりの問題を解決するなかで培われていくという意味である。
(解説)
 民主主義という言葉は多義的であるが,ここでは自治(政治参加と自立)の精神の意味である。イギリスの政治家ブライスの言葉と言われている。

〔研究〕戦前にも地方自治はあったのか。
⇒戦前は,大日本帝国憲法に地方自治に関する規定はなかったものの,市制・町村制,府県制・郡制がしかれていた。しかし,これらの地方制度は,中央集権体制の下での近代化を図ろうとする明治政府の出先機関にすぎず,府県知事は国の官吏とされていた。住民自治・団体自治をその本質とする地方自治が実現するのは,戦後の日本国憲法の制定以後である。

2.住民の権利(直接請求権)
 地方自治については,国の政治とちがって,住民に多くの直接請求権が認められている。
①条例の制定・改廃請求(イニシアティブ) 
 有権者の50分の1以上で首長に請求⇒首長が議会にかけその結果を公表する
②(事務)監査請求(イニシアティブ)    
 有権者の50分の1以上で監査委員に請求⇒監査結果の公表・議会・首長への報告
③議会の解散請求 (リコール)   
 有権者の3分の1以上で選挙管理委員会に請求⇒住民投票(過半数の同意で解散)
④議員・長の解職請求(リコール) 
 有権者の3分の1以上で選挙管理委員会に請求⇒住民投票(過半数の同意で解職)
⑤主要役員の解雇請求(リコール)
 有権者の3分の1以上で首長に請求⇒議会で議員2/3 以上出席,その3/4 以上の賛成で解雇

3.地方財政                     
⑴おもな歳入(2017年度)
①地方税(45.1%)
 都道府県税,市町村民税,事業税,固定資産税など。
②国からの補助
 地方交付税交付金(21.9%),国庫支出金(15.6%)など。地方交付税交付金は地域間の格差を是正するために国から地方公共団体に交付するもので,その使い途は自由。国庫支出金は国からまかされた仕事についての国から補助金。
③地方債の発行(10.6%)
 地方公共団体が発行する公債(借り入れ)でその半分以上は国からの借金。
※三割自治
 地方公共団体の自主財源(地方税など)が3~4割程度しかなく,自治体収入の多くを国の補助金(地方交付税交付金・国庫支出金)に頼っている状況を表現した言葉。

〔研究〕いわゆる三割自治の問題性を簡単に答えなさい。
〔解答〕財源の多くを国に頼るということは国の関与を受けるということであり,それだけ地方自治の実現が難しくなるということである。

⑵おもな歳出
 学校や図書館などに使われる教育費,道路や橋の建設に使われる土木費,公務員の給与関係費,地方債の返済に使われる公債費,社会福祉に使われる民生費など。
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社会科散策(政治)論述№15-裁判所 [政治]

5-3 統治機構③-裁判所

1.裁判所と司法権
 『すべて❶司法権は,❷最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する』(76条1項)。

司法権
 法に基づいて紛争を解決することを裁判といい,その権限を司法権という。
最高裁判所と下級裁判所
 最高裁判所は東京に一カ所しかないが,下級裁判所には,高等裁判所(全国に8カ所),地方裁判所・家庭裁判所(50カ所),簡易裁判所(438カ所)の4種類がそれぞれ設けられている。
 裁判所は,それを構成する裁判官の数によって,合議制と単独制とに分けられる。最高裁は,常に合議制で大法廷(15名全員)と小法廷(5名)に分けられる。高裁も合議制(3名又は5名),地裁・家裁は単独制が原則(例外3名),簡裁は常に単独制である。
                    
2.三審制
 裁判は,事件の内容によって,まず地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のいずれかで行われる。これを第一審という。その裁判に不服であれば上級の裁判所に控訴して第二審を受けることができる。その裁判にも不服であった場合にはさらに上級の裁判所(※)に上告して,第三審を申し出ることができる。このように,一つの事件について3回の裁判を求めることができるしくみを三審制という。
※通常は最高裁だが,民事では高裁が上告審となる場合がある

〔研究〕真犯人が見つかるなど「あらたな証拠」(刑訴法435条6号)が出てきた場合でも,裁判確定後はもはや救いようがないのか。類題(お茶女附属類題平成25年度)
〔解答〕裁判確定後は再審請求することができる。
(解説)
 再審請求は,判決の事実認定に誤りがあった場合に被告人救済のために行なわれる。従って,無罪判決に対して再審請求することはできない。また,「あらたな証拠」には事実認定(有罪判決)に合理的な疑いを生ぜしめる「明白性」が必要となる。

3.民事裁判と刑事裁判
 民事裁判は,交通事故で被った損害の賠償を請求したり貸した金銭の返還を求めるなど,私人間の争いに対する裁判である。民事裁判では,裁判所に訴えた人が原告となり,訴えられた人が被告となる。担当裁判官は,両者の主張をよく聞き,証拠を調べたうえ,法に基づいて判断をくだす。
 刑事裁判は,犯罪事実について,有罪・無罪を判断し,有罪と判断したときにはその刑罰を決める裁判をいう。刑事裁判では,検察官が罪を犯したと疑われている者(被疑者)を裁判所に起訴する。起訴された者を被告人という。
 裁判では法律や訴訟手続についての専門知識が必要となる。そこで,裁判では弁護士が訴訟代理人(民事)・弁護人(刑事)となるのが通常である(必要的弁護事件以外は弁護人なしに裁判を行なうこともできる)。
※行政訴訟
 行政機関を相手に国民が訴える訴訟を行政訴訟といい,広い意味では民事裁判に含まれる。

4.刑事事件と人権
①令状主義
 警察や検察の捜査では,裁判官の発する令状がなければ逮捕や家の捜索はできない。その理由は,公平な第三者(裁判官)に逮捕・捜索の理由と必要性を判断させるためである。
②黙秘権の保障
 自己に不利益な供述の強要は禁止される。イギリスのコモンローや米憲法に由来すると言われているが,その理由の説得的論証は難しい。自白強要・自白偏重⇒人権侵害につながることがその理由か。なお,最高裁は氏名や交通事故における事故報告は不利益供述(黙秘権侵害)とはならないとする。
③不任意自白の不許容
 拷問などをして無理やり自白させてもそれを証拠として使うことはできない。その理由は,拷問などの違法な取り調べをさせないようにするためである(違法捜査抑制説)。
④無罪の推定
 裁判においては,被告人は有罪判決を受けるまでは,無罪と推定される,すなわち,有罪の挙証責任は検察官にあり,有罪判決が出るまでは被告人を犯罪者扱いしてはいけない。
⑤公平な裁判所,迅速な裁判,公開裁判の保障
 被告人には「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」が保障されている。
⑥証人審問権,弁護人依頼権の保障
 証人審問権とは反対尋問権のこと。自己に不利益な供述をする証人に対して反論の機会を与えないのはフェアではないからである。また,互いの主張をぶつけ合うことで真実が浮かびあがるという訴訟哲学がある。
⑦刑事補償
 拘禁されていた被告人が裁判で無罪の判決を受けたときは,国に対し補償を請求することができる(刑事補償)。
⑧再審制度
 裁判が確定しても,無実の有力な証拠が出てきた場合は,裁判のやり直しを求めることができる(再審)。

5.司法権の独立
 『すべて裁判官は,❶その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。』(76条3項)

❶裁判が公正に行われるためには,裁判に対する圧力や干渉を排除し,公正な立場を確保することが必要となる。そこで,日本国憲法は裁判官に対して,憲法・法律に従うほかは,だれの指図も受けず,自分の良心にのみ従い裁判するように求めている。
❷裁判官が独立して公正な裁判を行うためには,裁判官の身分が十分保障されていなければならない。そこで日本国憲法は,裁判官は心身の故障による場合と,弾劾裁判所による裁判を除いて罷免されないと定めている(78条)。
※最高裁裁判官については,そのほかに国民審査の制度がある。また,裁判官には定年制がある(最高裁・簡裁は70歳,他は65歳)。

6.最高裁判所裁判官の国民審査
 最高裁判所の裁判官の任命については,『その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする』(79条2項)。   
 この国民審査の制度は,内閣による裁判官の任命に対して民主的コントロールを及ぼすことを目的としているが,その性質は国民が裁判官を罷免する解職制度(リコール)と考えられている。国民審査の方法は罷免を可とすべき裁判官に×印を付し,×の投票が過半数を超える場合に罷免が成立する。

7.違憲立法審査権(違憲法令審査権)
 『最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である』(憲法81条)。

①憲法は国の最高法規であるから,憲法に違反する法律・命令・規則・処分などはその効力を有しない(98条1項)。日本国憲法は,それらが憲法に違反していないかどうかを判断する権限を裁判所に与えた。これを違憲立法審査権あるいは違憲法令審査権という。
②裁判所は裁判で実際に争われている具体的な事件を通して違憲立法審査権を行使する。
③この権限は最高裁判所だけでなく,下級裁判所にも与えられている。ただ,最高裁判所は合憲か違憲かの最終的な決定権をもつので,とくに「憲法の番人」とも呼ばれている。

〔研究〕日本国憲法上の権力分立のもつ意義を,裁判所の役割を中心に述べなさい。類題(戸山推薦入試平成15年度)
〔解答〕権力分立制とは,国家の権力作用を立法・行政・司法に分離してそれぞれ国会・内閣・裁判所に担当させ,それらを相互に抑制・均衡させることにより,権力の濫用による人権侵害を防止しようとする制度である。日本国憲法は,国会と内閣に密接な関連をもたせる議院内閣制を採用しており三権を厳格には分離していないが,裁判所に違憲立法審査権を与えて,立法・行政の違憲的行為に対する司法統制を図っている。すなわち,裁判所に,具体的な事件を通して,国会や内閣の行為が憲法に違反していないかどうかを判断させ,権力の抑制と均衡の確保を図っているのである。
(解説)
 権力分立のもつ意義は,国家権力作用を三つに分立させ,相互に抑制・均衡させることで,人権保障を全うさせることにある。しかし,日本国憲法は議院内閣制を採用しており,アメリカのように厳格な権力分立とはなっていない。そこで権力分立の意義を実現するために,裁判所の役割が重視されることになるわけである。その最も重要な役割が違憲立法審査権であり,それを行使することにより,裁判所は,国会・内閣の違憲行為を抑制し人権保障を確保することになるのである。ただ,違憲審査権の行使は具体的事件を解決する限度でのみ認められなければならない。具体的事件に関わりなく認めてしまうと,今度は裁判所の権力が優越してしまい,権力分立の意義が損なわれることになるからである。
 本問は,単に権力分立の意義を問うのではなく,議院内閣制を採用した日本国憲法下での裁判所の役割の重要性を考えさせる問題である。

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社会科散策(政治)論述№14-内閣 [政治]

5-2 統治機構②-内閣

1.行政と内閣
 『❶行政権は,❷内閣に属する』(65条)

行政とは
 国会が決めた法律や予算に基づいて国の政治を行うことを行政という。この行政には,治安・防衛・外交をはじめ産業経済・教育・社会保障など,国会と裁判所が行う以外の国のしごとがすべて含まれる。
内閣の構成
 内閣は,内閣総理大臣とその他の国務大臣により構成され,内閣のしごとの方針は内閣総理大臣とすべての国務大臣が参加する閣議で決められる。

〔研究〕内閣総理大臣が国務大臣を任命するときに憲法に定められている条件を2つあげよ。 
〔解答〕①その過半数は国会議員の中から選ばれなければならない。②文民でなければならない。
(解説)
 ①は議院内閣制にもとづく規定である。②の「文民」は,軍隊に対する文民統制(シビリアンコントロール)に由来するもので,その本来の意味は(職業)軍人でない者である。しかし,軍人を認めない日本国憲法の下で,文民を軍人でない者としたのでは規定した意味がないことになる。つまり,日本に軍人がいないのに,軍人でない者を国務大臣にしなさいと規定しても無意味である。そこで,軍隊としての性格をもつ自衛隊に対する文民統制を考慮して,文民とは「自衛隊員でない者」と解釈されている。
※文民統制(シビリアンコントロール)
 ①政治と軍事の分離,②政治の軍事に対する優位,③軍事に対する民意の反映といった意味をあわせもつ。要するに,軍事組織から国民および民主政治を守るための思想・制度といえる。

〔研究〕文民統制 類題(平成31年東海高校)
 自衛隊の最高指揮権は内閣総理大臣が有しているが,これは何という原則にもとづいているか答えよ。
〔解答〕文民統制またはシビリアンコントロール 
(解説)上記参照。

〔研究〕独立行政委員会(行政委員会)は65条に違反しないか。理由をあげて答えよ。
〔解答〕公正取引委員会など行政委員会の職務は,内閣のコントロールになじまず司法作用と同様その独立性が要求されるから,内閣の指揮監督に服さなくても憲法(65条)には違反しないと考える。
(解説)
 人事院,公正取引委員会,国家公安委員会などの行政委員会は その職務を行うにあたっては内閣から独立して活動している。これらの行政委員会の活動は政治的中立が要請され,政治的・党派的決定になじまないことから,内閣や国会の指揮監督を受けなくても憲法違反(65条)とはならないと解されている。

2.議院内閣制
 内閣が,国会の信任に基づいてつくられ,国会に対して連帯責任を負う制度を,議院内閣制という。これは,内閣と国会との間に密接なつながりをもたせる制度で,イギリスなどで発達してきた制度である。

〔研究〕議院内閣制に基づく憲法上の規定をあげなさい。
〔解答〕まず,内閣は国会に対して責任を負うとされ(66条3項),衆議院は内閣不信任決議権を有し,不信任によって内閣は総辞職しなければならず(69条),たとえ内閣が衆議院を解散しても,総選挙後の国会召集時に内閣は総辞職しなければならない(70条)。また,内閣の形成に関して,内閣総理大臣は国会の議決で指名され(67条1項),内閣総理大臣および他の国務大臣の過半数は国会議員から選ばれなければならない(67条1項,68条1項)。さらに,議案の提出,国務の報告(72条),大臣の議院出席(63条)なども議院内閣制に関連する。

〔研究〕大統領制と議院内閣制との本質的な違いは何か。アメリカと日本の制度を念頭に説明せよ。類題(平成31年同志社高校・平成31年大阪教育大附属)
〔解答〕ともに権力分立を基礎とする制度だが,大統領制は三権を厳格に分離しているのに対し,議院内閣制は立法府と行政府との間に密接な関係を有する制度である。アメリカの大統領は国民の選挙(間接選挙)で選ばれるのに対して,日本の総理大臣は国会が指名する。従って,大統領と議会の関係は薄く,議会に大統領に対する不信任決議権はなく,また,大統領に議会解散権はない。

〔研究〕衆議院で内閣不信任が可決されたとき,内閣あるいは内閣総理大臣がおこなう憲法上の対応策を答えよ。
〔解説〕①衆議院の解散を閣議で決定すること。②内閣総辞職を閣議で決定すること。③内閣総理大臣が辞職すること。
(解説)
 衆議院の解散権は内閣にあり(7条),内閣総理大臣に解散権があるわけではない。従って,閣議決定(全員一致)が必要となる。ただ,内閣総理大臣はいつでも反対する国務大臣を罷免できることから,政治上,首相の専権事項とされているだけである。内閣総辞職も閣議で決定される。ただ,内閣総理大臣の辞職は,必然的に内閣の総辞職を伴う(70条)から,閣議決定が不要な場合もありうる。従って,「内閣総理大臣が辞職すること」も正解となる。

3.内閣の権限
 内閣は,行政権の中心として広い範囲の行政権を行使する。
※憲法第73条(内閣の職務)
一 法律を誠実に執行し,国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し,事前に,時宜によっては事後に,国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること。但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない。
七 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を決定すること。
 そのほか,国会の召集,最高裁判所長官の指名,最高裁判所のその他の裁判官の任命,下級裁判所裁判官の任命,天皇の国事行為に対する助言と承認,国会及び国民への国の財政状況の報告,決算の国会への提出などがある。 
※衆議院の解散権も内閣にある(7条説)。

4.内閣総辞職
 内閣総辞職とは,内閣の構成員全員が同時に辞職することをいう。内閣は自発的に総辞職することもできるが,総辞職が必要な場合として次の場合がある。
①衆議院で不信任決議案が可決されたのち,10日以内に衆議院が解散されなかったとき(憲法69条)
②内閣総理大臣が,死亡,失踪,亡命など,「欠けたとき」(憲法70条) 
③衆議院議員総選挙後に初の国会が召集されたとき(憲法70条)

〔研究〕衆議院の選挙が行われた後の国会(特別会又は臨時会)で,内閣総辞職が行われ,新しい内閣が作られるのはなぜか。類題(2019年熊本県高校入試問題)
〔解答〕内閣は国会に対し連帯責任を負い,国会(又は衆議院)の信任が内閣の存立ために必要だからである。
(解説)衆議院解散または任期満了により総選挙が行われた後に国会(特別会・臨時会)の召集があったときは,新しい民意に基づく新しい衆議院が構成されたことになるから,あらためて内閣総理大臣が指名され,それに基づいて内閣が作られなければならない。
 衆議院の解散あるいは任期満了から総選挙を経て国会(特別会又は臨時会)が召集されるまでの最大70日の期間(40+30)衆議院は存在しないことになるが,その間も従来の内閣が行政権を行使する。また,内閣が総辞職した場合には,「内閣は,あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ」(71条)。
 
5.行政と国民生活
⑴行政権の肥大化と優越
 今日,行政の活動は,産業・経済の発展,公共施設・社会保障の充実,環境保全・公害規制,教育・文化の向上など,さまざまな分野に及んでいる。このように行政の活動が広くなると,権限や費用,人員など行政の規模は大きくなり,またその内容も複雑になってくる(行政の肥大化)。そうすると,国会が定める法律は,大まかなことだけを定め,実施のしかたは,行政機関の定める命令や規則に委ねざるをえなくなる。これは,国の政治の中心が立法機関から行政機関に移っていることを意味する(行政権の優越)。
⑵行政権に対する民主的コントロール
 行政権の優越は民主政治をゆがめる危険がある。しかし,国民へのサービスを充実させるためには,これを否定することはもはやできなくなっている。したがって,今後は,肥大化し優越化した行政権をどのようにコントロールしていくかが重要な課題となる。


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社会科散策(政治)論述№13-国会 [政治]

5-1 統治機構①-国会

1.国会の地位(第41条)
 国会は『国権の最高機関であり,国の「唯一の立法機関』
 これは,国会が国民の意思を代表する機関であることから,国会は国の政治の中心的な機関であること,そして,国会だけが法律の制定や改正・廃止をする権限をもっている立法機関であることを示している。
※最高機関といっても,国会が内閣や裁判所よりも上位の地位(支配・従属関係)にあるという意味ではない。これは権力の抑制と均衡により人権保障を図ろうとする憲法の考え方からいって当然のことである。もちろん,国会を「国権の最高機関」と規定したことに何らかの法的意味を与えることも可能だが(権限機関不明の場合の権限の推定規定と捉えるなど),「最高機関」から演繹的に法的効果を導くことには異論も多い(樋口陽一ほか)。

2.国会の組織
⑴二院制(第42条)
 『国会は,❶衆議院及び❷参議院の❸両議院でこれを構成する』

❶衆議院〔465名,小選挙区289・比例代表区176,任期4年(解散あり),被選挙権25歳以上〕
❷参議院〔245名,選挙区147,比例代表区98,任期6年(3年半数改選),被選挙権30歳以上〕※2019年7月現在
❸両議院は原則として同時に活動,それぞれ独立して活動(例外として「両院協議会」)

〔研究〕参議院の存在理由について説明せよ。
 参議院設置の理由は,①衆議院の多数派のみによって国政が専断的に行なわれることを防止する,②国民の多様な意見を代表させ「良識の府」としての役割を果たさせること,③衆議院の解散中の緊急事態に対処するために第二院が必要であることなどがあげられている。
(解説)
 「第二院は,第一院と一致すれば無用であり,第一院と一致しなければ有害である」(シェイエス)と批判される。参議院がその存在意義を発揮するためには,衆議院とは異なった議員構成を考える必要がある。衆議院の単なるコピーでは存在意義はほとんどないことになる。

⑵委員会制度
 各議院にそれぞれ常任委員会,特別委員会(必要に応じて)。
 議案等の実質的で効率的な審議を確保するためにアメリカにならって導入(憲法上の制度ではない)。

3.国会の活動
⑴常会・臨時会・特別会
 活動期間の違いにより,❶常会,❷臨時会,❸特別会が区別される。

常会(通常国会)は毎年1回召集される(1月中)。
臨時会(臨時国会)は必要に応じて内閣が臨時に召集。ただ,いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば,内閣はその召集を決定しなければならない。
特別会(特別国会)は衆議院解散・総選挙後30日以内に召集される。

〔研究〕いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があったにもかかわらず内閣が臨時会を召集しなかった場合,どうなるのか。
〔解答〕憲法53条により,内閣は臨時会召集決定の法的拘束を受け,召集の決定をしないことは憲法違反となる。ただ,これに対する制裁措置は存在しておらず,また,裁判所の介入も憲法裁判所の制度をとっていない以上難しい。従って,法的拘束力があるといっても実効性はない。
(解説)
 2015年10月,安倍内閣は衆議院の臨時会召集要求に対して,外遊日程を理由にこれを拒否したが,そのような理由で憲法違反行為を行なってもよいのかは疑問である。

⑵参議院の緊急集会(憲法54条2項)
 衆議院が解散されると,国会は,総選挙後に特別会が召集されるまで停止する。この間の緊急事態に対処するための制度が参議院の緊急集会。『緊急集会において採られた措置は,臨時のものであつて,次の国会開会の後十日以内に,衆議院の同意がない場合には,その効力を失ふ』(憲法54条3項)。

⑶会議の原則
①定足数
 会議体が議事を行い,議決をなすために必要な最小限度の出席者の数。『両議院は,各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ,議事を開き議決することができない』(56条1項)。
②表決数
 会議体が意思決定を行うに必要な賛成表決の数。憲法で特別の定めのある場合を除いて,『出席議員の過半数でこれを決し,可否同数のときは,議長の決するところによる』(56条2項)

4.国会の権能
⑴法律の議決権
 法律は,国民の自由や権利を制限したり,あるいは保護・援助するために制定される。 
★法律案の議決における衆議院の優越
 衆議院で可決し参議院でこれと異なった議決をした場合,衆議院の可決後参議院が60日以内に議決しない場合⇒ 衆議院は参議院が否決したものとみなせる 
 衆議院の主導により,3つの方法がある。①両院協議会の開催(各議院から各10=計20で組織),②衆議院での出席議員の三分の二以上の再議決,③廃案
⑵予算の議決権
 予算の財源はおもに国民の税金である。その規模や使い途は国民の生活に大きな影響をあたえる。そこで,予算を決めるのは国民の代表機関である国会とされている。但し,予算を作成し提出することができるのは内閣だけ。       
★予算の議決における衆議院の優越
 衆議院で可決し,参議院でこれと異なった議決をした場合 ⇒ 両院協議会(必要的)
 衆議院の可決後,参議院が30日以内に議決しない場合   ⇒ 自然成立
⑶条約の承認権
 憲法73条3号は,条約の締結権を内閣に与えているが,『事前に,時宜によっては事後に,国会の承認を経ることを必要とする』。これは,条約の締結は国民の利益に影響することから,国会の関与が必要と考えられたためである(事前承認が原則)。
★条約の承認における衆議院の優越
 予算の議決の場合と同じ。ただし,予算のような衆議院先議はない。
⑷内閣総理大臣の指名 
 『内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決で,これを指名する』(憲法67条)。→議院内閣制
★内閣総理大臣の指名における衆議院の優越
 衆議院で可決し,参議院でこれと異なった議決をした場合 ⇒ 両院協議会(必要的)
 衆議院の可決後,参議院が10日以内に議決しない場合   ⇒ 自然成立 
⑸弾劾裁判所の設置 
 『国会は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける』(憲法64条)
 罷免事由には,著しい職務上の義務違反・職務怠慢・裁判官としての威信を著しく失うべき非行がある。弾劾裁判所は,各議院からそれぞれ7人ずつ選出される裁判員で構成されるが,国会から独立してその職務を行う。
※国会にあるのは設置権限のみであり,弾劾裁判自体を行なう権限はないことに注意。 
⑹憲法改正の発議権
 『各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない』(憲法96条1項)
※議院の権能 
 両議院が協同して行使するのではなく,それぞれ独自に行使する権能として,法律案提出権,議院規則制定権,議員懲罰権,国政調査権がある。

〔研究〕国会では衆議院の優越が認められているがそれはなぜか,説明しなさい。(50字前後)類題(お茶女附属平成24年度)
〔解答〕衆議院には解散があり,また議員の任期が4年と参議院より短く,より民意が反映されやすいと考えられているからである。56字
(解説)
 憲法上,衆議院に優越が認められているのは,法律・予算の議決,条約の承認および内閣総理大臣の指名の場合である。なお,予算については衆議院に先議権が認められている。
 また,予算議決・条約承認,首相指名は,早期の決着をはかる必要から,法律の議決より強い衆議院の優越が認められている。したがって,衆議院優越の理由には「円滑審議の要求」も含まれる。ただ,本試験では上述の〔解答〕の理由でないと点はつかないだろう。

〔研究〕成立する法律案の多くが内閣の提出によるものであり,議員提出法案は2割程度にとどまっているが,これはなぜか。
〔解答〕議会の多数派によって構成される内閣が提出する法案が否決されることは少なく,これに対して野党提出の議員立法は否決されることが多いからである。
(解説)
 国会議員は一人でも国会図書館や議院法制局の協力を得て法案を作成することが可能である。ただ,衆議院では20名以上、参議院では10名以上の賛成がないと提案することができない。さらに予算を伴う場合はそれぞれ50名、20名以上の賛成が必要となる(国会法56条)。

〔研究〕法律案の多くが内閣提出であることの憲法上の問題性を,簡単に説明しなさい。 80字前後 
〔解答〕内閣提出法案は,各省庁の官僚が発案・作成したものが大多数であることから,その数の増大は,官僚主導の政治を招き,唯一の立法機関である国会の役割が損なわれるおそれがある。83字
(解説)
 行政需要が増大し行政の肥大化が進んだ現代においては,政策の立案・作成のすべてを国会が決めることはもはや不可能で,行政の専門家集団(官僚)に委ねざるを得なくなっているのが実情である。しかし,そうすると国会を「唯一の立法機関」とした憲法の趣旨,即ち,国民すべてに適用される法律は国民の代表者が決めるべきだとする国民主権の原理(正当性)に反するのではないか,という問題が生ずる。
 この問題については,法律の発案・作成は官僚であっても,その成立には国会の議決が必要であるから,国会が「唯一の立法機関」であることを損なうものではないとの答えが用意されている。確かに,憲法違反とはいわないまでも,「唯一の立法機関」という国会の地位を考えると「全国民の代表」である国会議員による立法の増大が望まれる。
※議員立法の増大が民意を反映した政治といえるのだが,国会議員や官僚の現状(醜態)を見ると民意などどうでもよくなる。

5.国会議員の特権
⑴不逮捕特権
 『両議院の議員は,法律の定める場合を除いては,国会の会期中逮捕されず,会期前に逮捕された議員は,その議院の要求があれば,会期中これを釈放しなければならない』(憲法50条)
⑵免責特権
 『両議院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問はれない』(憲法51条)。

〔研究〕国会議員に特権が認められている理由は何か。 
〔解答〕不逮捕特権の理由は,政府の不当逮捕から議員の身体の自由を守ること,あるいは議院の審議権を確保することにある。免責特権の理由は,国会議員の独立性を確保し,議院における議員の言論活動を最大限に保障することにある。    

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社会科散策(政治)論述№12-参政権・国務請求権・国民の義務 [政治]

4-7 基本的人権の保障⑦-参政権,国務請求権,国民の義務            

〔参政権〕
⑴原則としての間接選挙
 国民の意見は選挙で選ばれた❶代表者を通じて政治に反映される。例外として,❷直接民主制が採用されている。
間接民主制
 前文第1段,43条1項,15条1項,3項,93条2項
直接民主制
 憲法改正国民投票(96条),最高裁判所国民審査(79条),地方自治特別法の住民投票(95条)
⑵選挙に関する憲法上の原則
普通選挙の原則(第15条3項)
 一定の年齢に達すれば原則として全員に選挙権が与えられる。
平等選挙の原則(14条)                        
 一人一票が与えられることおよびその一票の重みに差があってはいけない。
秘密選挙の原則(15条4項)
 無記名投票のこと。つまり投票用紙に候補者名のみを書き,自分の名前は書かないで投票すること。
直接選挙の原則
 有権者が直接議員を選出する制度。選挙人が中間選挙人を選出し,その中間選挙人が議員を選出する間接選挙と対置される。地方議会選挙については,憲法93条2項に明文の規定があるが,国会議員選挙には特別の規定がない。しかし,主権者の意思(民意)は忠実に国政に反映されなければならないという要請から,国会議員の選挙にも直接選挙の原則が妥当する。
〔研究〕普通選挙の原則と平等選挙の原則との違いを答えよ。
〔解答〕普通選挙とは,選挙資格の平等,平等選挙は選挙価値の平等を意味する。つまり,普通選挙は選挙権の有無についての平等であり,平等選挙は付与された選挙権の内容についての平等の問題である。 
〔研究〕議員定数不均衡問題とは何か。 
〔解答〕選挙区間にける有権者数と議員定数(当該選挙区で選ばれる人数)との比率が異なり,有権者の選挙価値(一票の重み)に格差が生じている問題。
(解説)
 例えば,A選挙区の有権者数が10万人で議員定数が10人,B選挙区の有権者数が2万人で議員定数が10人のとき,B選挙区の有権者はA選挙区の有権者の5倍の価値をもつ選挙権を有することになる。
〔研究〕日本の選挙制度の課題の1つに「一票の格差」の問題がある。なぜ問題になるのか説明しなさい。(80字前後)類題(お茶女附属平成26年度)
〔解答〕一票の格差とは,一票の重み,即ち有権者の選挙結果への影響力の格差を意味し,これの放置は,選挙の重みの平等を保障した選挙平等の原則(憲法14条)に反することになるからである。86字
(解説)
 従来より,最高裁は「一票の格差」を理由に,幾度も衆議院議員選挙の議員定数訴訟において違憲あるいは違憲状態判決を下してきた。最近では参議院議員選挙でも違憲状態判決を出している。ただ,違憲「無効」判決はその影響の大きさに鑑み下されてこなかった。これら違憲(状態)判決に呼応してか,ようやく国会は,その格差を2倍以内に収めようとしているが,まだ紆余曲折がありそうだ。
 違憲だが選挙自体は有効だという判決は最高裁の苦肉の策だが,ゆがんだルールによって選ばれた者達が作った法律は,果たして国民の意思を適切に反映しているのだろうか。
⑶選挙制度
 各選挙区から1名を選ぶ制度を小選挙区といい,各選挙区から2名以上を選ぶ制度を大選挙区という。また,政党に投票し各政党の得票率に応じて議席を配分する制度を比例代表制という。
 現在の衆議院議員選挙は,小選挙区制と比例代表制を組み合わせた小選挙区比例代表並立制で行われている。また,参議院議員選挙は,都道府県単位の選挙区制と全国を一つにした比例代表制に分けて行われている。
※拘束名簿式比例代表制…衆議院の比例代表選出議員(11ブロック)     
※非拘束名簿式比例代表制…参議院議員選挙比例区(全国1区)
〔研究〕小選挙区は死票が多くなるという問題がある。その意味を簡潔に答えなさい。
〔解答〕死票が多いということは,議席に結びつかない票が多くなるということであり,有権者の意思が議席に正確に反映されないことを意味する。
(解説)
 小選挙区制とは,各選挙区から1名を選出する制度である。この小選挙区制には,ほかに,大政党に有利となり二大政党制になりやすい,政局が安定する,といった特徴がある。小選挙区制と対照的なのが,比例代表制で,死票が少なく,民意が正確に議席に反映さやすい,小党が乱立する,といった特徴がある。
〔研究〕小選挙区制では各政党の得票率と議席率が大きく異なってしまうが,これはなぜか。
〔解答〕1選挙区1人しか選出されないため,大政党に属する議員が多く選出される結果となるから。
(解説)
 小選挙区制が大政党に有利なのは,各選挙区の有権者の政党支持割合が類似しており,どの選挙区でも大政党に属する候補者一人が当選することになるからである。それ故,小選挙区制では小政党は議席を獲得することが困難となるから,大政党に対抗する勢力となるために結合せざるを得ず,結果,二大政党制になりやすい。
⑷選挙のしくみと運営
※選挙運動に関する規制-①戸別訪問の禁止(公選法 138条),文書図画頒布の制限(同法 142条, 243条),事前運動の禁止(同法 129条, 239条)
※選挙に関する事務は,国におかれる中央選挙管理会,都道府県・市町村ごとにおかれる選挙管理委員会が行いう。
※選挙公営(選挙の公正・公平)
 選挙運動に対し国または地方公共団体が種々の便宜や経費を負担する制度を選挙公営という。現在日本では,新聞広告,政見放送,経歴放送,公営施設の使用の個人演説会,選挙公報の発行などが公営とされている。     

〔国務請求権〕(人権保障をより確実なものにするための権利)
⑴請願権(第16条)…参政権的役割を果たしている。
 何人も,損害の救済,公務員の罷免,法律,命令又は規則の制定,廃止又は改正その他の事項に関し,平穏に請願する権利を有し,何人も,かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
⑵裁判を受ける権利(第32条)
 何人も,裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。 
⑶国家賠償請求権(第17条)-国(公務員)の違法行為によって生じた損害への償い。
 何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。⇒国家賠償法
⑷刑事補償(第40条)-国の適法行為によって生じた損害への償い。
 何人も,抑留又は拘禁された後,無罪の裁判を受けたときは,法律の定めるところにより,国にその補償を求めることができる。⇒刑事補償法

〔国民の義務〕
⑴勤労の義務(27条1項)
⑵保護する子女に普通教育を受けさせる義務(26条2項)
⑶納税の義務(30条)
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社会科散策(政治)論述№11-社会権 [政治]

4-6 基本的人権の保障⑥-社会権(25条,26条,27条,28条)                                
〔生存権〕(25条)                    
 「すべて国民は,❶健康で文化的な最低限度の生活を営む❷権利を有する」(25条1項)

健康で文化的な最低限度の生活
 これを具体化するために生活保護などの公的扶助や健康保険・年金保険などの社会保険といった社会保障制度が整備されている。
生存権は「権利」である。
 生存権は,従来,「国に政治の指針(努力目標)を示したにすぎず,生存権を根拠にただちに金銭等を要求することはできない。国民が政府に金銭等を要求するためには,予算の裏付けや生存権を具体化した法律(例えば生活保護法)が必要である」(プログラム規定説)とされてきた。しかし,現在の学説・判例は生存権が「権利」(裁判規範)であることを認めている。ただ,その「権利」の内容については議論が分かれている(生存権を具体化した法律の憲法適合性や立法不作為の憲法適合性を争うことも許されるかなど)。
※最高裁の考え方(朝日訴訟・堀木訴訟)については,いわゆるプログラム規定説を採ったと理解する向きもあるが,生存権の裁判規範性(法的拘束性)は認めており,プログラム規定説を採ったと断定するのは妥当でない。

〔教育を受ける権利〕(26条)
 すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく❶教育を受ける権利を有する」(26条1項)。❷義務教育は,これを無償とする(同2項)

❶この権利を実現するために,国は教育制度を維持し,教育条件を整備する義務を負い,教育基本法や学校教育法が定められている。
※旭川学テ事件最高裁判決(昭和51年)
 いわゆる教育権の所在について,最高裁は,国家教育権説も国民教育権説も「極端かつ一方的」であるとして否定した。しかし,教育内容について広汎な国の介入権を肯定して学テを適法との判断を示した。
❷無償とは,「授業料不徴収」の意味である(最判39年)。

〔勤労の権利〕(27条)                 
 「すべて国民は,❶勤労の権利を有し,❷義務を負ふ(27条1項)。
❶国は国民に対して,勤労の機会を保障する政策を行ったり,適切な勤労条件を整備する責務を負う。これを受けて,労働基準法や最低賃金法などが定められている。
❷勤労の義務は強制ではなく道徳的義務にとどまる。ただ,働けるのに働かない場合,生活保護を受けられないなどの不利益を受ける。

〔労働基本権〕(28条)
 「❶勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は,これを❷保障する(28条)。

❶団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権)を労働基本権あるいは労働三権という。
❷使用者に対し劣位に立つ労働者の地位を保護・強化することがその目的。労働基本権(労働三権)を具体的に保障するために,労働組合法や労働関係法が定められている。

〔研究〕公務員の労働基本権(争議権)制限は合憲か。
※最高裁は全逓東京中郵判決(最判昭和41年)で,公務員にも労働基本権が保障されるが,その職務の性質上,国民全体の利益の保障という見地からの制約を当然の内在的制約として内包するにとどまると判旨した上で,厳しい4条件をあげて合憲判決を下した。しかし,全農林警職法事件判決(最判昭和48年)では,これを変更して公務員の地位の特殊性と職務の公共性を理由に一律かつ全面的な制限を合憲とした。
 尚,芦部憲法は,「憲法が公務員関係の存在と自立性を憲法秩序の構成要素として認めていること」にその制限根拠があるとし,その制限は,その職務の性質,違い等を勘案しつつ,必要最小限度の範囲にとどまらなければならないとする。

〔研究〕公務員の政治活動の自由の制限は合憲か。
猿払事件最高裁合憲判決(最判49年)
 郵便局員が選挙用ポスターを公営掲示板に掲示したり,配布した行為が国家公務員法に違反するとして起訴された事件で,最高裁は規制目的と政治禁止行為との間に合理的関連性があるとして合憲と判断した。しかし,これに対しては,実質的に「明白の原則」と異ならないとの批判がある。
 
〔研究〕「労働三権」といわれる権利のうち「団結権」とは具体的に何をすることを保障しているか。その目的も含めて答えよ。類題(学大附属)
〔解答〕使用者の地位と対等な立場に立たせるために,労働者に労働組合を作ることを保障している。
(解説)
 労働三権とは,団結権,団体交渉権,団体行動権のことで,団体交渉権は労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利,団体行動権は労働者の団体が労働条件の実現を図るために団体行動(中心は争議行為)を行なう権利である。
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社会科散策(政治)論述№10-経済の自由 [政治]

4-5 基本的人権の保障⑤-自由権(経済の自由)

〔経済の自由〕
 職業選択の自由(22条)と❸財産権の保障(29条)には,第13条に重ねて,❸「公共の福祉」による制限が規定されている。

憲法22条1項の「職業選択の自由」は,職業を選択するだけでなく,選択した職業を遂行する自由(営業の自由)も含まれる。
 最高裁は経済活動の自由については,「合理性」の基準,即ち,立法目的及び立法目的達成手段の双方について,一般人を基準にして合理性が認められるかどうかを審査する。そして,さらに職業活動の規制目的に応じて二つに分け,消極目的規制については「厳格な合理性」の基準,積極規制についてはゆるやかな「明白の原則」を用いて審査している。
※小売市場距離制限合憲判決(最判昭和47年)
 最高裁は「距離制限」を小売商保護のための積極規制と捉え,「明白性」審査により合憲と判断した。
※薬局距離制限違憲判決(最判50年)
 最高裁は,「距離制限」を国民の生命・健康への危険防止のための消極規制と捉え,「厳格な合理性」の基準により違憲と判断した。
※公衆浴場距離制限合憲判決(最判平成元年1月20日,3月7日)
 最高裁(1月20日)は,「距離制限」を既存の浴場業者の転廃業防止のための積極規制と捉え合憲と判断。また,3月7日判決では,消極(衛生確保,病気・伝染の防止)・積極両目的の併有を理由に合憲と判断した。

憲法29条
 ①財産権は,これを侵してはならない。
 ②財産権の内容は,公共の福祉に適合するやうに,法律でこれを定める。
 ③私有財産は,正当な補償の下に,これを公共のために用ひることができる。
※第1項は,個人の具体的な財産権を保障するとともに,私有財産制の保障(個人が財産権を享有しうる法制度)をも保障する。
※森林法共有林分割請求制限規定違憲判決(最判62年)
 最高裁は,当該分割請求制限規定の目的を「森林経営の安定を図り~国民経済の発展に資する」として積極目的規制と捉えながら,手段審査について厳しい基準を用いて違憲の判断を下した。この判断は従来の最高裁の審査手法(消極規制=厳格審査,積極規制=明白性の原則)と異なることから,最高裁に審査手法の変化があったのではないかと捉えられている。
※奈良県ため池条例事件合憲判決(最判38年)
 災害防止のためため池の堤とうに農作物を植える行為等を禁止する条例は,財産権の内容は法律で定めるとした憲法29条2項に反するのではないかが問題となった。これに対して最高裁は,堤とう使用禁止は当然受忍されるべき制約であるから,災害の原因となる堤とうの使用行為は憲法・民法の保障する財産権の埒外にあるとして,合憲と判断した。
※予防接種事故補償問題
 予防接種による健康被害につき,憲法29条3項を根拠として補償請求できるかが問題となっている。
 ⇒ 肯定・否定分かれるが,財産権の侵害に補償が行われるなら,生命・身体への侵害に補償がなされるのは当然であり,「特別犠牲」として補償を認めるべきであろうか。
 
❸本条項の「公共の福祉」の意味については,内在的制約(人権の調整原理)だけでなく外在的制約(社会経済的制約)も含まれると考えられている。

〔研究〕公共の福祉とは何か。
 個人主義(個人の尊重主義)を基本原理とする日本国憲法において,「公共の福祉」を全体の利益(全体主義・国家主義)と考えることは許されない。では,個人主義のもとで人権を制約する「公共の福祉」はどう考えたらよいか。
⇒人権は一人の個人に与えられるものではなく,地球上の人間全員に平等に与えられているものである。とすると,一人だけ人権を主張することや他人の人権を侵害することはゆるされず,その調整が必要となる。その調整原理(内在的制約)が「公共の福祉」と理解されている。ただ,人権を制約する理由は人権同士の衝突だけでなく,他人の利益や自己の利益(パターナリズム)のための場合があることも否定できない。また,経済的自由の規制については,22条・29条の「公共の福祉」には内在的制約のほか外在的制約(政策的規制)の意味も含めて考える必要がある。

〔研究〕経済の自由が精神の自由よりも強度の規制(二重の基準)を受けるのはなぜか。
〔解答〕
 第一に,経済活動の自由を野放しにすると,貧富差拡大,恐慌,独占といった弊害が生じ,その弊害を除くためにより強い規制が必要となるからである。第二に,生存権や勤労権といった社会権を保障するためには,経済活動に対するより積極的な規制が必要となるからである。
(補足)
 一方,表現の自由を中心とする精神の自由に対する規制は慎重でなければならない。なぜなら,精神の自由は「こわれ易く傷つき易い」権利であり,且つ一旦こわれるとその回復が難しいからである。


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社会科散策(政治)論述№09-身体の自由 [政治]

4-4 基本的人権の保障④-自由権(身体の自由)

〔身体の自由〕            
①奴隷的拘束・意に反する苦役からの自由(18条)
 個人の尊厳を害する❶奴隷的拘束は絶対的に禁止され,刑罰としても許されない。❷意に反する苦役は犯罪による場合を除いて禁止される。

❶戦前の監獄部屋やたこ部屋などがそれにあたる。
❷強制的な労役のことである。
〔研究〕徴兵制(兵役義務)は意に反する苦役にあたるか。
〔解答〕兵役を強制する兵役義務は強制労働を課すものでであり,「意に反する苦役」にあたる。
(解説)解答としては以上の記述で足りるが,徴兵制の問題はそれほど簡単なものではない。この問題は,軍隊の存在を前提にしているから,まず,憲法9条の改正が必要となる。次に憲法18条との関係では,「犯罪による場合」以外に例外として認められないのかが問題となる。
 現在,法律上強制される場合として,裁判員法の裁判員候補者に対する出頭・審理参加義務,消防法・水防法・災害救助法の労働提供義務などがあるが,兵役義務もこれらと同様に考えられないか。 ⇒ 徴兵制は個人の生命・身体を危険にさらす制度であり,他の人命救助義務等と同等に考えることは妥当とはいえないであろう。また,憲法19条(良心の自由)にかかわる問題でもあるから,あいまいな「公共の福祉」だけの理由で許容することは妥当でない。

②適正手続の保障と罪刑法定主義(31条)
 本条は刑事手続(行政手続も含む)だけでなく,実体(犯罪と刑罰)をも法律で定めることを要請している。       
③刑事手続上の保障(33~39条)
〔研究〕死刑制度の是非
(解説)
 論点①死刑は残虐刑か(36条),②国家による殺人か(矛盾しないか),③誤判の危険(取りかえしがつかない),④「目には目を」(応報)の妥当性,⑤凶悪犯罪に対する抑止効果はあるか,⑥世論の動向,⑦国際比較(先進国の多くが廃止している)等に対する判断が要求されるが,この中での最重要論点は③の誤判の危険性である。これをどうクリアー(説得)するかが存廃論の鍵となるだろう。
〔研究〕拷問によって得た自白が証拠とされないのはなぜか(自白法則)。
〔解答〕
 虚偽自白の恐れがあるから,人権侵害だから,違法捜査の抑制に最も良い方法だからといった理由があげられる。
〔研究〕自白だけで有罪とされないのはなぜか(補強法則)。
〔解答①〕自白偏重にともなう捜査機関の自白強要を防止するため。
〔解答②〕自白は信用されやすく,有罪認定を自白だけに頼るのは危険だから(誤判防止)。
(解説)
 解答①②は自白法則との関係が問題となる。また,解答②は自白の信用力(証明力)を問題としているが,自白に証明力が足りないとは一概にはいえないとの疑問がある。そこで,補強法則を政策規定と解する見解もある。なお,「公判廷の自白」については,補強証拠がなくても有罪とできるとするのが最高裁の立場である(自白強要の恐れがなく,また,信用性が担保できるゆえ)。
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社会科散策(政治)論述№08-精神の自由 [政治]

4-3 基本的人権の保障③-自由権(精神の自由)
※自由権=国家権力から干渉されないことをその本質とする。

〔精神の自由〕…必要最小限度の規制
①思想・良心の自由(19条)
 「思想及び良心の自由は,これを侵してはならない」
 人が心の中で何を考えまた思ったとしても,これを制限することは不可能である。従って,この自由の保障の意味は,❷「その内心の自由侵害可能な行為」からの自由を保障することにある。

❶思想・良心とはものの考え方であり,単なる事実の知不知は含まれない。ただ,事実を証言させる行為が良心を侵害することもあり,両者の区別は明確とはいえない。
❷内心の自由侵害可能な行為とは,告白を強制したり内心に反する行為を強制することである。
★具体的に問題となった事例(最高裁はいずれも合憲又は適法判断を示している)
*名誉棄損行為に対して新聞紙上に謝罪広告を掲載することを命ずる判決
*企業の採用面接で学生運動等の経歴を質問する行為(三菱樹脂事件)
*公立学校の入学式・卒業式での国旗掲揚・国歌斉唱の起立強制(職務命令)
 
②信教の自由(20条,89条)
 第20条は❶信教の自由を保障するとともに❷国家と宗教の分離(政教分離)を定めている。また,89条は財政面から政教分離の徹底を図っている。

信仰の自由及び宗教的行為の自由を保障する。
※具体例
*宗教上の教義を理由に公立高校の剣道の授業を拒否する行為(最高裁は学生の拒否行為を認めた)
*教会学校への出席を優先して日曜日授業参観日の授業を欠席した児童に対して「欠席記載」という不利益を課した行為(東京地裁は児童側の主張を退けた)
政教分離
〔研究〕日本国憲法は第20条及び89条において,政教分離を規定しているが,なぜ,政治と宗教は分離されなければならないのか,簡潔に答えなさい。
〔解答例①〕政治権力が特定の宗教と結びつくと,他の宗教が阻害・弾圧され,個人の宗教の自由(信仰する自由・信仰しない自由)が侵害されるからである。
〔解答例②〕真理を追求する宗教を政治に持ち込むと,妥協によって成立する民主政治が成り立たなくなるからである。
〔解答例③〕理性的な討論の場に宗教(教主の哲学)を持ち込むと政治が堕落するからである。
(解説)
 似たような問題が2015年度の同志社高等学校の入試問題に出ていたが,解答例①の解答を要求したものであった。
 戦前の日本(明治憲法下)でも宗教の自由は認められていたが,その保障は弱く法律によらなくても制限できるというもので,実際,神道が事実上国教化されていた。そのため,キリスト教やその他の新興宗教への弾圧が繰り返されていた。その反省をも踏まえて,現憲法は20条で宗教の自由・政教分離を保障するとともに89条で財政的側面からの政教分離を保障したのである。
 この政教分離については,最高裁は,両者(政治と宗教)の結びつきの程度を考慮して合憲・違憲の判断を下している(津地鎮祭訴訟=合憲,愛媛玉ぐし料訴訟=違憲)。本来,政治と宗教は厳格に分離されることが望ましいが,現代の福祉国家においては,国家が宗教団体にかかわりを持たざるを得ない場合もある。たとえば,宗教団体が運営する私立学校(小・中・高・大・幼稚園・保育園)に対しても他の私立学校と同じように補助金を交付しなければ不公平となる。結局は程度問題とならざるを得ないのである。

③表現の自由(21条)
 「集会,結社及び言論,出版その他一切の❶表現の自由は,これを保障する。❷検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。」(第21条)

表現の自由に対する規制
 民主政治の根幹をなす表現の自由は最大限に尊重されなければならない。もちろん,暴動を煽動したり,他人の名誉を棄損する行為は犯罪として処罰される。しかし,その場合でも政治的表現を含む煽動や公人(政治家)の名誉やプライバシーに関わる言動を安易に処罰してしまったのでは,表現の自由を保障した意義が損なわれてしまう。したがって,表現の自由を規制する法律等の制定や適用は慎重でなければならず,また,その制定・適用に対して裁判所は厳格に審査する必要がある。

〔研究〕メディアリテラシー類題(筑波附属平成31年)
 国会議員の活動についてマスメディアからその情報を得る場合,メディアリテラシーが必要とされるのはなぜか。説明しなさい。
〔解答〕マスメディアは,それぞれの政治的立場から情報を取捨選択して国民に報道しており,その情報を無批判に受け入れることは情報操作や選好に基づく意思形成の危険があるからである。
(解説)
 メディアリテラシーとは,情報の価値を判断する能力および情報を取捨選択する能力を意味する。情報社会が進展し多種多様な情報が氾濫するなか,各個人が受け取った情報の価値を判断し,かつその情報を取捨選択する能力なくして自己決定することは難しくなっている。メディアリテラシーの欠如はマスメディアや国家の情報操作による世論形成を招く結果となる。個人を尊重する民主主義国家の実現に国民の情報批判能力は不可欠である。
 本問は,国会議員の活動についてのマスメディアの情報に対するメディアリテラシーの必要について問われている。これはマスメディアには,政府(与党)寄り,政府批判(野党)寄りの新聞やテレビが存在していることを再認識させるものといえるが,メディアリテラシーは,玉石混交の情報が飛び交うインターネット社会においてより重要なものとなっている。

検閲
 検閲とは,国家機関(行政・司法)が,表現物の内容を事前に審査し不適当と認めるものの発表を禁止する制度である。戦前の発禁制度がその典型だが,戦後では,猥褻物の税関検査や教科書検定制度などが問題となっている(最高裁はいずれも検閲や事前規制にはあたらないとしている)。
※教科書検定制度
*最高裁判決(1993年)
 最高裁は,検定制度について,教科書として合格しなくても,一般の書籍として発行することが禁止されるわけではないから,検閲にはあたらないとする(1993年)。
*近隣諸国条項
 昭和57年に中国や韓国から教科書検定に対する非難が起こり外交問題に発展したことから,日本政府は,社会科教科書の検定基準を改めて「近隣アジア諸国との国際理解と国際協調に配慮すること」という項目を加えた。
 これに対しては,「内政干渉を許す結果となった」,「日本だけにこのような条項も設けたのは不当だ」,「歴史認識や歴史直視などといった外交カードを与えてしまった」といった批判が,最近の中国や韓国の強行な姿勢(反日政策)とあいまって強くなっている。

④学問の自由と大学の自治(23条)
 学問の自由の保障をより強固なものとするために,学術の中心機関である大学には,「大学の自治」が制度的に保障されていると考えられている。即ち,学長や教授の選任,大学施設や学生の管理は大学の自主的判断に委ねられるとされている。ただ,最高裁は,学生の演劇発表会(松川事件を題材とした)については,真に学問的な研究と発表のためのものではないとして,大学の自治を享有しないとした(ポポロ事件)。

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