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社会科散策(政治)論述№14-内閣 [政治]

5-2 統治機構②-内閣

1.行政と内閣
 『❶行政権は,❷内閣に属する』(65条)

行政とは
 国会が決めた法律や予算に基づいて国の政治を行うことを行政という。この行政には,治安・防衛・外交をはじめ産業経済・教育・社会保障など,国会と裁判所が行う以外の国のしごとがすべて含まれる。
内閣の構成
 内閣は,内閣総理大臣とその他の国務大臣により構成され,内閣のしごとの方針は内閣総理大臣とすべての国務大臣が参加する閣議で決められる。

〔研究〕内閣総理大臣が国務大臣を任命するときに憲法に定められている条件を2つあげよ。 
〔解答〕①その過半数は国会議員の中から選ばれなければならない。②文民でなければならない。
(解説)
 ①は議院内閣制にもとづく規定である。②の「文民」は,軍隊に対する文民統制(シビリアンコントロール)に由来するもので,その本来の意味は(職業)軍人でない者である。しかし,軍人を認めない日本国憲法の下で,文民を軍人でない者としたのでは規定した意味がないことになる。つまり,日本に軍人がいないのに,軍人でない者を国務大臣にしなさいと規定しても無意味である。そこで,軍隊としての性格をもつ自衛隊に対する文民統制を考慮して,文民とは「自衛隊員でない者」と解釈されている。
※文民統制(シビリアンコントロール)
 ①政治と軍事の分離,②政治の軍事に対する優位,③軍事に対する民意の反映といった意味をあわせもつ。要するに,軍事組織から国民および民主政治を守るための思想・制度といえる。

〔研究〕文民統制 類題(平成31年東海高校)
 自衛隊の最高指揮権は内閣総理大臣が有しているが,これは何という原則にもとづいているか答えよ。
〔解答〕文民統制またはシビリアンコントロール 
(解説)上記参照。

〔研究〕独立行政委員会(行政委員会)は65条に違反しないか。理由をあげて答えよ。
〔解答〕公正取引委員会など行政委員会の職務は,内閣のコントロールになじまず司法作用と同様その独立性が要求されるから,内閣の指揮監督に服さなくても憲法(65条)には違反しないと考える。
(解説)
 人事院,公正取引委員会,国家公安委員会などの行政委員会は その職務を行うにあたっては内閣から独立して活動している。これらの行政委員会の活動は政治的中立が要請され,政治的・党派的決定になじまないことから,内閣や国会の指揮監督を受けなくても憲法違反(65条)とはならないと解されている。

2.議院内閣制
 内閣が,国会の信任に基づいてつくられ,国会に対して連帯責任を負う制度を,議院内閣制という。これは,内閣と国会との間に密接なつながりをもたせる制度で,イギリスなどで発達してきた制度である。

〔研究〕議院内閣制に基づく憲法上の規定をあげなさい。
〔解答〕まず,内閣は国会に対して責任を負うとされ(66条3項),衆議院は内閣不信任決議権を有し,不信任によって内閣は総辞職しなければならず(69条),たとえ内閣が衆議院を解散しても,総選挙後の国会召集時に内閣は総辞職しなければならない(70条)。また,内閣の形成に関して,内閣総理大臣は国会の議決で指名され(67条1項),内閣総理大臣および他の国務大臣の過半数は国会議員から選ばれなければならない(67条1項,68条1項)。さらに,議案の提出,国務の報告(72条),大臣の議院出席(63条)なども議院内閣制に関連する。

〔研究〕大統領制と議院内閣制との本質的な違いは何か。アメリカと日本の制度を念頭に説明せよ。類題(平成31年同志社高校・平成31年大阪教育大附属)
〔解答〕ともに権力分立を基礎とする制度だが,大統領制は三権を厳格に分離しているのに対し,議院内閣制は立法府と行政府との間に密接な関係を有する制度である。アメリカの大統領は国民の選挙(間接選挙)で選ばれるのに対して,日本の総理大臣は国会が指名する。従って,大統領と議会の関係は薄く,議会に大統領に対する不信任決議権はなく,また,大統領に議会解散権はない。

〔研究〕衆議院で内閣不信任が可決されたとき,内閣あるいは内閣総理大臣がおこなう憲法上の対応策を答えよ。
〔解説〕①衆議院の解散を閣議で決定すること。②内閣総辞職を閣議で決定すること。③内閣総理大臣が辞職すること。
(解説)
 衆議院の解散権は内閣にあり(7条),内閣総理大臣に解散権があるわけではない。従って,閣議決定(全員一致)が必要となる。ただ,内閣総理大臣はいつでも反対する国務大臣を罷免できることから,政治上,首相の専権事項とされているだけである。内閣総辞職も閣議で決定される。ただ,内閣総理大臣の辞職は,必然的に内閣の総辞職を伴う(70条)から,閣議決定が不要な場合もありうる。従って,「内閣総理大臣が辞職すること」も正解となる。

3.内閣の権限
 内閣は,行政権の中心として広い範囲の行政権を行使する。
※憲法第73条(内閣の職務)
一 法律を誠実に執行し,国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し,事前に,時宜によっては事後に,国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること。但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない。
七 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を決定すること。
 そのほか,国会の召集,最高裁判所長官の指名,最高裁判所のその他の裁判官の任命,下級裁判所裁判官の任命,天皇の国事行為に対する助言と承認,国会及び国民への国の財政状況の報告,決算の国会への提出などがある。 
※衆議院の解散権も内閣にある(7条説)。

4.内閣総辞職
 内閣総辞職とは,内閣の構成員全員が同時に辞職することをいう。内閣は自発的に総辞職することもできるが,総辞職が必要な場合として次の場合がある。
①衆議院で不信任決議案が可決されたのち,10日以内に衆議院が解散されなかったとき(憲法69条)
②内閣総理大臣が,死亡,失踪,亡命など,「欠けたとき」(憲法70条) 
③衆議院議員総選挙後に初の国会が召集されたとき(憲法70条)

〔研究〕衆議院の選挙が行われた後の国会(特別会又は臨時会)で,内閣総辞職が行われ,新しい内閣が作られるのはなぜか。類題(2019年熊本県高校入試問題)
〔解答〕内閣は国会に対し連帯責任を負い,国会(又は衆議院)の信任が内閣の存立ために必要だからである。
(解説)衆議院解散または任期満了により総選挙が行われた後に国会(特別会・臨時会)の召集があったときは,新しい民意に基づく新しい衆議院が構成されたことになるから,あらためて内閣総理大臣が指名され,それに基づいて内閣が作られなければならない。
 衆議院の解散あるいは任期満了から総選挙を経て国会(特別会又は臨時会)が召集されるまでの最大70日の期間(40+30)衆議院は存在しないことになるが,その間も従来の内閣が行政権を行使する。また,内閣が総辞職した場合には,「内閣は,あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ」(71条)。
 
5.行政と国民生活
⑴行政権の肥大化と優越
 今日,行政の活動は,産業・経済の発展,公共施設・社会保障の充実,環境保全・公害規制,教育・文化の向上など,さまざまな分野に及んでいる。このように行政の活動が広くなると,権限や費用,人員など行政の規模は大きくなり,またその内容も複雑になってくる(行政の肥大化)。そうすると,国会が定める法律は,大まかなことだけを定め,実施のしかたは,行政機関の定める命令や規則に委ねざるをえなくなる。これは,国の政治の中心が立法機関から行政機関に移っていることを意味する(行政権の優越)。
⑵行政権に対する民主的コントロール
 行政権の優越は民主政治をゆがめる危険がある。しかし,国民へのサービスを充実させるためには,これを否定することはもはやできなくなっている。したがって,今後は,肥大化し優越化した行政権をどのようにコントロールしていくかが重要な課題となる。


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