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社会科散策(政治)論述№15-裁判所 [政治]

5-3 統治機構③-裁判所

1.裁判所と司法権
 『すべて❶司法権は,❷最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する』(76条1項)。

司法権
 法に基づいて紛争を解決することを裁判といい,その権限を司法権という。
最高裁判所と下級裁判所
 最高裁判所は東京に一カ所しかないが,下級裁判所には,高等裁判所(全国に8カ所),地方裁判所・家庭裁判所(50カ所),簡易裁判所(438カ所)の4種類がそれぞれ設けられている。
 裁判所は,それを構成する裁判官の数によって,合議制と単独制とに分けられる。最高裁は,常に合議制で大法廷(15名全員)と小法廷(5名)に分けられる。高裁も合議制(3名又は5名),地裁・家裁は単独制が原則(例外3名),簡裁は常に単独制である。
                    
2.三審制
 裁判は,事件の内容によって,まず地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のいずれかで行われる。これを第一審という。その裁判に不服であれば上級の裁判所に控訴して第二審を受けることができる。その裁判にも不服であった場合にはさらに上級の裁判所(※)に上告して,第三審を申し出ることができる。このように,一つの事件について3回の裁判を求めることができるしくみを三審制という。
※通常は最高裁だが,民事では高裁が上告審となる場合がある

〔研究〕真犯人が見つかるなど「あらたな証拠」(刑訴法435条6号)が出てきた場合でも,裁判確定後はもはや救いようがないのか。類題(お茶女附属類題平成25年度)
〔解答〕裁判確定後は再審請求することができる。
(解説)
 再審請求は,判決の事実認定に誤りがあった場合に被告人救済のために行なわれる。従って,無罪判決に対して再審請求することはできない。また,「あらたな証拠」には事実認定(有罪判決)に合理的な疑いを生ぜしめる「明白性」が必要となる。

3.民事裁判と刑事裁判
 民事裁判は,交通事故で被った損害の賠償を請求したり貸した金銭の返還を求めるなど,私人間の争いに対する裁判である。民事裁判では,裁判所に訴えた人が原告となり,訴えられた人が被告となる。担当裁判官は,両者の主張をよく聞き,証拠を調べたうえ,法に基づいて判断をくだす。
 刑事裁判は,犯罪事実について,有罪・無罪を判断し,有罪と判断したときにはその刑罰を決める裁判をいう。刑事裁判では,検察官が罪を犯したと疑われている者(被疑者)を裁判所に起訴する。起訴された者を被告人という。
 裁判では法律や訴訟手続についての専門知識が必要となる。そこで,裁判では弁護士が訴訟代理人(民事)・弁護人(刑事)となるのが通常である(必要的弁護事件以外は弁護人なしに裁判を行なうこともできる)。
※行政訴訟
 行政機関を相手に国民が訴える訴訟を行政訴訟といい,広い意味では民事裁判に含まれる。

4.刑事事件と人権
①令状主義
 警察や検察の捜査では,裁判官の発する令状がなければ逮捕や家の捜索はできない。その理由は,公平な第三者(裁判官)に逮捕・捜索の理由と必要性を判断させるためである。
②黙秘権の保障
 自己に不利益な供述の強要は禁止される。イギリスのコモンローや米憲法に由来すると言われているが,その理由の説得的論証は難しい。自白強要・自白偏重⇒人権侵害につながることがその理由か。なお,最高裁は氏名や交通事故における事故報告は不利益供述(黙秘権侵害)とはならないとする。
③不任意自白の不許容
 拷問などをして無理やり自白させてもそれを証拠として使うことはできない。その理由は,拷問などの違法な取り調べをさせないようにするためである(違法捜査抑制説)。
④無罪の推定
 裁判においては,被告人は有罪判決を受けるまでは,無罪と推定される,すなわち,有罪の挙証責任は検察官にあり,有罪判決が出るまでは被告人を犯罪者扱いしてはいけない。
⑤公平な裁判所,迅速な裁判,公開裁判の保障
 被告人には「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」が保障されている。
⑥証人審問権,弁護人依頼権の保障
 証人審問権とは反対尋問権のこと。自己に不利益な供述をする証人に対して反論の機会を与えないのはフェアではないからである。また,互いの主張をぶつけ合うことで真実が浮かびあがるという訴訟哲学がある。
⑦刑事補償
 拘禁されていた被告人が裁判で無罪の判決を受けたときは,国に対し補償を請求することができる(刑事補償)。
⑧再審制度
 裁判が確定しても,無実の有力な証拠が出てきた場合は,裁判のやり直しを求めることができる(再審)。

5.司法権の独立
 『すべて裁判官は,❶その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。』(76条3項)

❶裁判が公正に行われるためには,裁判に対する圧力や干渉を排除し,公正な立場を確保することが必要となる。そこで,日本国憲法は裁判官に対して,憲法・法律に従うほかは,だれの指図も受けず,自分の良心にのみ従い裁判するように求めている。
❷裁判官が独立して公正な裁判を行うためには,裁判官の身分が十分保障されていなければならない。そこで日本国憲法は,裁判官は心身の故障による場合と,弾劾裁判所による裁判を除いて罷免されないと定めている(78条)。
※最高裁裁判官については,そのほかに国民審査の制度がある。また,裁判官には定年制がある(最高裁・簡裁は70歳,他は65歳)。

6.最高裁判所裁判官の国民審査
 最高裁判所の裁判官の任命については,『その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする』(79条2項)。   
 この国民審査の制度は,内閣による裁判官の任命に対して民主的コントロールを及ぼすことを目的としているが,その性質は国民が裁判官を罷免する解職制度(リコール)と考えられている。国民審査の方法は罷免を可とすべき裁判官に×印を付し,×の投票が過半数を超える場合に罷免が成立する。

7.違憲立法審査権(違憲法令審査権)
 『最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である』(憲法81条)。

①憲法は国の最高法規であるから,憲法に違反する法律・命令・規則・処分などはその効力を有しない(98条1項)。日本国憲法は,それらが憲法に違反していないかどうかを判断する権限を裁判所に与えた。これを違憲立法審査権あるいは違憲法令審査権という。
②裁判所は裁判で実際に争われている具体的な事件を通して違憲立法審査権を行使する。
③この権限は最高裁判所だけでなく,下級裁判所にも与えられている。ただ,最高裁判所は合憲か違憲かの最終的な決定権をもつので,とくに「憲法の番人」とも呼ばれている。

〔研究〕日本国憲法上の権力分立のもつ意義を,裁判所の役割を中心に述べなさい。類題(戸山推薦入試平成15年度)
〔解答〕権力分立制とは,国家の権力作用を立法・行政・司法に分離してそれぞれ国会・内閣・裁判所に担当させ,それらを相互に抑制・均衡させることにより,権力の濫用による人権侵害を防止しようとする制度である。日本国憲法は,国会と内閣に密接な関連をもたせる議院内閣制を採用しており三権を厳格には分離していないが,裁判所に違憲立法審査権を与えて,立法・行政の違憲的行為に対する司法統制を図っている。すなわち,裁判所に,具体的な事件を通して,国会や内閣の行為が憲法に違反していないかどうかを判断させ,権力の抑制と均衡の確保を図っているのである。
(解説)
 権力分立のもつ意義は,国家権力作用を三つに分立させ,相互に抑制・均衡させることで,人権保障を全うさせることにある。しかし,日本国憲法は議院内閣制を採用しており,アメリカのように厳格な権力分立とはなっていない。そこで権力分立の意義を実現するために,裁判所の役割が重視されることになるわけである。その最も重要な役割が違憲立法審査権であり,それを行使することにより,裁判所は,国会・内閣の違憲行為を抑制し人権保障を確保することになるのである。ただ,違憲審査権の行使は具体的事件を解決する限度でのみ認められなければならない。具体的事件に関わりなく認めてしまうと,今度は裁判所の権力が優越してしまい,権力分立の意義が損なわれることになるからである。
 本問は,単に権力分立の意義を問うのではなく,議院内閣制を採用した日本国憲法下での裁判所の役割の重要性を考えさせる問題である。

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