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社会科散策(経済)論述№02-経済主体 [経済]

2 経済主体
 収入と支出の経済活動を行なう主体を経済主体といい,その代表的な3主体が家計・企業・政府である。

1.家計と消費生活
⑴家計の所得
①勤労所得(勤労収入)
②個人業主所得(事業収入)
③財産所得(財産収入)
④その他(年金や恩給)

⑵家計の支出
①消費支出(食料費・住居費・被服費など)
②非消費支出(税金・保険の掛け金)
③貯蓄(預貯金)
※エンゲル係数
 消費支出に占める食料費の割合をエンゲル係数という。このエンゲル係数は各家庭の生活水準をはかる一つの目安となる。その値が低いほど家計にゆとりがあることになる。

〔研究〕エンゲル係数はなぜ各家庭の生活水準をはかる目安となるのか。簡潔に答えよ。
〔解答〕食費の家計支出(消費支出)にしめる割合が高いということは,教育費・交通費・娯楽費などの支出が少ないことを意味し,それだけ余裕がないことが分かるからである。
(解説)
 もちろん,エンゲル係数だけでその目安とするわけにはいかないが,人間食べる量はたいして変わらないから,一応の目安にはなりうる。

⑶消費者の権利と保護
①消費者主権とその保護 
 商品の生産量を決めるのは企業ではなく消費者だという考え方を消費者主権という。しかし,現実には企業の強大な力により消費者の利益が損なわれている。そこで,消費者の利益を立法や行政措置により保護するべく,ケネディ大統領が唱えたのが,「消費者の四つの権利」である。これを受けてわが国でも消費者保護のための法律や制度がつくられてきた。
※消費者のための四つの権利
*商品の安全性を求める権利,商品の情報を知らされる権利,商品を選ぶ権利,消費者の意見を聞いてもらう権利

②消費者保護のための法律
 ❶消費者基本法,❷製造物責任法,❸消費者契約法,そのほか訪問販売法,割賦販売法,貸金業法などが制定された。

❶消費者基本法
 2004年に「消費者保護基本法」(1968)が改正され, 「消費者基本法」となった。行政が事業者を指導監督することによって消費者が保護されるというこれまでの考え方から, 消費者を「権利の主体」と位置付け, その権利を実現できる社会づくりをしていこうとするものである。
❷製造物責任法(PL法)
 製品(商品)の欠陥から生じた拡大損害(生命・身体・財産)について,製品の欠陥が証明できれば,その製造メーカーに損害賠償を請求することができるとする法律。
❸消費者契約法
 すべての売買契約について,事業者側に不当な行為があれば契約解除できるとした。

③消費者保護のための制度及び機関
※クーリングオフ制度
 訪問販売や電話勧誘などで契約した場合に,一定の期間内であれば無条件で契約を解除できる制度。
※消費者庁の発足
 「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現」を目ざし,2009年に内閣府外局として発足。
※国民生活センター(国の機関),消費生活センター(地方公共団体の機関)の設置

〔研究〕製造物責任法について,次の語句を全部用いて説明しなさい。
 商品,欠陥,証明,製造メーカー,損害賠償
〔解答〕上記❷参照。
(解説)
 製造物責任法は,製品の欠陥から生じた拡大損害の賠償請求,たとえば,欠陥のある電子レンジが原因で火災となり家が全焼した場合の損害等についての賠償を電子レンジの製造メーカーに請求できるとする法律である。
 製造物責任法は消費者によるメーカーの過失の立証は不要として消費者保護をはかったものだが,日本の製造物責任法は,製品の欠陥の存在は消費者が証明しなければならないとしている。現代の高度に複雑化した精密機械の欠陥を消費者が証明することは至難のわざで過失証明との差はほとんどない。その意味ではなお不十分である。

2.生産活動
⑴生産の三要素
 企業の生産活動には,❶土地,❷資本財,❸労働力が必要である。これを生産の三要素という。

❶工場や店舗を建てるための土地
❷生産のための原材料や工場設備,機械
❸人間の労働力

⑵再生産
 企業が生産活動を繰り返すことを再生産といい,その再生産の規模が拡大されること(拡大再生産)によって,雇用が増大するとともに家計収入が増え消費も増大する。その結果,国民経済が発展する。

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社会科散策(経済)論述№01-資本主義経済とその変容 [経済]

1-1 資本主義経済 
1.生産・消費・流通
 ❶財とサービスを生産・消費し,❷それを支える活動を経済活動という。
❶商品のうち,形をなすものを財といい形のないものをサービスという。
※財には,生産に使う生産財と生活に使う消費財がある。
❷金銭等をなかだちとする商品の流れを流通という。

2.市場経済
 ❶市場を通して商品の種類や値段,質や量などが決められる。この経済のしくみを❷市場経済という。
❶市場とは,消費者が生産者や流通業者と商品をなかだちにして出会う場のこと。
❷市場経済においては,人びとは消費量,生産量を自由に決めることができ,そのために売れ残りや品不足が生ずる場合がある。売れ残る場合には価格が下がることにより生産が減少し,品不足の場合には価格が上がることにより消費が減少することになる。

3.資本主義経済
 ❶資本主義経済の特徴は❷私有財産制・経済活動の自由と❸市場経済である。
❶近代資本主義は18世紀後半にイギリスから起こった産業革命(機械制大工業)を通して成立した(資本主義の初期形態はマニュファクチュア=工場制手工業)。
❷生産のための土地や工場などの生産手段が私的に所有され,財・サービスが商品として自由に売買される経済である。
❸この資本主義経済では,限りある資源は市場における需給関係を通して最適に配分される。生産活動が計画的に行なわれる社会主義経済と対照的である。
※社会主義経済
 社会主義経済とは「生産手段の私的所有を改めて人々の共同所有とし,生産活動を私的企業の営利活動から解き放って社会化しようとする思想と運動」(東京書籍政治経済)のことである。なかでもマルクスの社会主義思想は後世に大きな影響をあたえ,20世紀前半,ソ連・東欧をはじめとする社会主義政権が誕生した。
〔研究〕資本主義経済の特徴をあげなさい。
〔解答〕私有財産と経済活動の自由(営業の自由)が認められ,需要と供給により限りある資源が適正配分されることがその特徴である。
(解説)
 私有財産の保障と経済活動の自由だけでもよい。また,生産手段(土地と工場)の私的所有や需要と供給による価格決定としてもよい。  

4.資本主義経済の発展とその弊害
 資本主義経済は,❶自由放任主義のもと生産力を飛躍的に発展させたが,その反面,❷種々の弊害をもたらした。
❶アダム・スミスの自由放任主義(19世紀)
 アダム・スミスは,その著『諸国民の富(国富論)』(1776)のなかで,個人が利己心を発揮して活動すれば「見えざる手」により社会全体の調和がとれ,全体の利益も増大すると述べ,政府は経済活動に干渉しないほうがよいと説いた。このアダム=スミスの自由放任主義は,当時の市民階級(産業資本家)の経済思想として受け入れられた。
❷資本主義経済の発展に伴う種々の弊害
①周期的に発生する恐慌。
 企業の自由競争は商品の生産過剰を生み出し,急激な景気変動をもたらした。
②独占・寡占企業の出現。
 一部の巨大企業が市場を支配するようになると,市場メカニズム(見えざる手)が有効に機能しなくなる。
③貧富差の拡大。

5.資本主義経済の変容
 20世紀に入ると,資本主義経済は世界恐慌を契機に大きく変容を遂げ,❶資本主義各国は景気回復と失業者救済のために,❷積極的な経済政策をとりはじめた。
❶アメリカのニューディール政策(1933~39年)
 フランクリン・ローズベルト大統領による不況対策。ニューディールとは「新規まき直し」という意味。テネシー川流域開発公社(TVA)の設立をはじめ,各種の失業対策・農民対策を行なった。
❷修正資本主義(混合経済)
 イギリスの経済学者ケインズは,アダム=スミスの自由放任主義を批判し,「有効需要の原理」(後述)により政府の経済への介入の必要性を説き,戦後,世界の先進資本主義国は,このケインズの主張に沿った政策をとるようになった(ニューディール政策もケインズ理論によるものと理解されているが,どっちが先かは微妙である)。
※小さな政府への回帰(新自由主義)-ケインズ批判
 しかし,政府の経済への介入は,「大きな政府」を生み出し,行政機構の肥大化や非効率的な経済運営をもたらした。そこでまた,市場メカニズムの活用の主張や「小さな政府」論が展開されるようになり,1980年代のレーガン政権(米),サッチャー政権(英)や2000年代のブッシュ政権(米),小泉政権(日)はその「小さな政府」を実践した。
※大きな政府の復権
 ところが,2008年にアメリカで起きた金融恐慌は,ブッシュ政権(米)の下で,規制撤廃や金融商品の証券化がグローバルな規模で行われた結果であるとして,その行き過ぎに警戒する動きが出ている。日本でも,規制緩和や民営化が格差社会をもたらしたとの批判が噴出した。そこで,また,「大きな政府」の主張が勢いを増している。


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社会科散策(政治)論述№20-環境問題 [政治]

5-4 国際政治④-環境問題
 先進国の大量消費,途上国の工業化・乱開発などの影響で,地球の環境破壊が深刻な問題になってきた。

 フロンガスによる❶オゾン層破壊(紫外線による皮膚ガン),化石燃料による❷酸性雨の発生(森林破壊),人口増加にともなう過耕作・過放牧による❸砂漠化,二酸化炭素(CO2) などの温室効果ガスによる❹地球温暖化,❺放射能汚染,❻環境ホルモン。

❶南極のオゾン層破壊(現在オゾンホールは縮小傾向にあるとされている。その理由は不明である)
❷酸性雨(ヨーロッパやアメリカ東部,中国東部など)
❸砂漠化(アフリカのサヘル,中国内陸部,中央アジアなど)
❹地球温暖化 
 温室効果ガス(二酸化炭素のほか,メタンやフロンなど)が原因とされている。
※CO2放出国(中国・アメリカ・ロシア)は,温暖化対策をしていない。
※温暖化問題は政治利用の側面も強い。膨大な対策費(税金)を出す前に精密な科学的論証が必要であろう。
❺放射能汚染(核実験,チェルノブイリ原発事故や東日本大震災の津波による福島原発事故)
❻環境ホルモン 
 ダイオキシン,PCB,DDTなど。⇒遺伝子レベル特に生殖機能への影響が言われているが十分解明されているわけではない。ダイオキシンについては,現在,その毒性はかなり低いと考えられている。
※日本では,これまで小中学校のゴミ焼却炉の撤廃,焚き火禁止,細かいゴミの分別,マイ箸(割り箸追放)・マイバッグ・マイカップ・マイストローなどと過敏・過剰な対応がなされてきた。

※環境会議の経緯(各国の思惑・利権がからみ温暖化対策の足並みは揃っていない)
*国連人間環境会議(1972年,スウェーデンのストックホルム)
 「かけがえのない地球」を守るために,国連を中心に各国が協力する体制がつくられた。
*国連環境開発会議(1992年,ブラジルのリオデジャネイロ)~地球サミット
 「持続可能な開発」の実現をめざす世界的な枠組みがまとめられ,二酸化炭素の排出量を抑制する地球温暖化防止条約が結ばれた。
*COP3=第3回気候変動枠組条約締約国会議(1997年,京都)~地球温暖化防止京都会議
 161 カ国が参加して「温室効果ガス」の削減数値を盛り込んだ京都議定書が採択された(アメリカは離脱)。
*持続可能な開発に関する世界首脳会議(2002年,ヨハネスブルク)~環境開発サミット
 「地球サミット」(1992年)で決めた行動計画の具体策をまとめるため191 カ国・地域の代表が集まった。しかし,具体的成果は得られなかった。
*COP21(2015年12月,パリ)
 京都議定書に代わる地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」を採択(条約に加盟する196カ国・ 地域が参加)。「産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える」という国際目標と,「1.5度未満」の努力目標を明記。さらに,「今世紀後半には排出を実質ゼロにする」とした。
 目標達成の義務化は見送られたが,すべての国に自主的に削減目標を作成し(国連に提出),対策をとることを義務付けた(実施状況の報告と目標の5年ごとの見直しを義務化)。
 先進国の開発途上国への資金支援は,目標額を協定そのものには盛り込まず,法的拘束力のない別の文書に「2025年までに年間1000億ドルを下限として設定する」とした。
※ 2017年に「パリ協定」からの離脱を表明していたアメリカのトランプ大統領は、2019年11月5日,離脱を正式に国連に通告した(2020年11月4日に正式な離脱となる)。

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社会科散策(政治)論述№19-冷戦~終結後,軍縮の歩み [政治]

5-3 国際政治③-冷戦,多極化,第三世界,軍縮

⑴二つの世界(冷戦体制)
①西側陣営(資本主義陣営)
 戦後,アメリカは西欧諸国への大規模な復興援助計画(マーシャルプラン)を実施するとともに,1949年,西欧諸国およびカナダとの間に,北大西洋条約機構(NATO)を結成して共産圏の封じ込めをはかった。
②東側陣営(社会主義陣営)
 ソ連は,経済相互援助会議(COMECON)を設立し,1955年にはワルシャワ条約機構を東欧諸国との間で結成した。
※鉄のカーテン
 英首相チャーチルは,1946年の訪米中の演説で「北はバルト海(シュテッティン)から,南はアドリア海(トリエステ)に至るまで鉄のカーテンがおろされている」とソ連の厳しい封鎖線を皮肉った。
 
 東西陣営が対立する冷戦下で,❶東西ドイツ,❷南北朝鮮,❸南北ベトナムといった分断国家が生まれ,また,冷戦終結まで米ソ対立を反映した❹代理紛争が展開された。

❶戦後ドイツは,西側(米英仏の共同管理)と東側(ソ連)に分断された。ベルリンも東西に分断され,西ベルリンにはソ連によりベルリンの壁(1961~89)が構築された。東西ドイツの統一は1990年。
❷1945年,北緯38度線を暫定的境界として南を米軍が北をソ連軍が占領した。そして1948年,南に大韓民国(初代大統領李承晩)北に朝鮮民主主義人民共和国(初代首相金日成)が成立した。
❸1945年9月にベトナム民主共和国(初代大統領ホー・チ・ミン)が成立。第1次インドシナ戦争後ジュネーヴ休戦協定が結ばれ(1954),北緯17度線が暫定境界線とし,56年7月に南北ベトナム統一選挙を実施することが定められた。しかし,1955年10月アメリカの支援を受けたベトナム共和国が成立し,ベトナムは南北に分断した。
❹朝鮮戦争(1950~53),ベトナム戦争(第二次インドシナ戦争1965~73),ソ連のアフガン侵攻(1979)など。

⑵緊張緩和(雪解け)
 1955年,❶米・ソ・英・仏の4巨頭によるジュネーブ会談が開かれ,国際政治は❷緊張緩和(雪解け)に向かった。

❶具体的成果は得られなかったが話し合いの機運が高まった。
❷緊張緩和(デタント)
 米ソ間の核兵器による恐怖の均衡が成立したこと,また,非同盟諸国を中心に,平和共存を求める声が強まったこと,さらに,1953年のスターリンの死後,ソ連で平和共存を重視する政策の転換が行なわれたことがその要因としてあげられる。
 1962年にキューバ危機がおこり,米ソの対立は最高潮に達したが,これを教訓に米ソ間にホットラインがしかれるなど,対決を回避する空気が強まった。そして,翌年には,米・英・ソ間に部分的核実験禁止条約が締結されるに至った。

⑶二極化から多極化へ
 緊張緩和とともに両陣営の結束がしだいにゆるみ,独自の立場をとる国が現れてきた。社会主義陣営では,1950年代半ば中ソ論争(社会主義の路線対立)が展開され,1960年代末に中ソ国境紛争にまで発展した。また,東欧諸国においても,ソ連からの自立をめざす動きが現れてきた(ハンガリー事件1956年,チェコ事件1968年)。
 資本主義陣営では,フランスが1960年に核兵器を所有し1964年には中国と国交を樹立するなど独自の外交を展開した(1966年にはNATO脱退)。また,西欧諸国や日本は経済成長を遂げて国際競争力を強めていった。

〔研究〕(中ソ対立)

 中ソ対立の原因と米中接近の経過について説明せよ。

〔解答〕 1956年2月にソ連がスターリン批判を展開したこと,及びアメリカとの平和共存路線をとったことに対して,中国はソ連を修正主義と非難した。1969年には中ソ国境で武力衝突がおこるなど対立がエスカレートしたことから,毛沢東は危機回避のためアメリカに接近した。ベトナム戦争の打開を模索していたアメリカもこれに応じ,中国との関係改善に乗り出した。1972年,ニクソン大統領が訪中し米中首脳会談が実現した。


⑷第三世界
 アジア・アフリカの新興諸国は,発言力を強めるために,「第三世界」として結束し,東西いずれの陣営にも属さない立場(非同盟主義)を表明した。1955年のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)では,植民地主義反対,民族自決主義,平和共存などの平和十原則が採択された。
 また,これらの新興国は経済的にもその自立を図ろうと,国連貿易開発会議(UNCTAD)や国連総会を舞台に南北問題の解決にあたってきた。しかし,近年では開発途上国間でも,資源を持つ国と持たざる国,工業化に成功した国と経済が停滞する国とで格差が広がったり,開発途上国間での対立も問題(南南問題)となっており,開発途上国同士の結束はむずかしくなっている。

⑸冷戦終結とその後
 1985年に成立したソ連のゴルバチョフ政権は,ペレストロイカといわれる改革政策を進めるとともに,いろいろな立場に柔軟に対応する「新思考外交」を展開した。このソ連の変化を背景に,東欧諸国では政治的民主化を求める運動が急速に広まり,共産党による一党独裁体制が次々に倒されていった。そしてついに,1989年末,地中海のマルタでの米ソ首脳会談で冷戦終結宣言がなされた。
 冷戦終結後,ヨーロッパでは,1990年10月東西ドイツが統一された。また,1991年末にはソ連が消滅し新たに独立国家共同体が成立した。アジアでは,1990年にソ連と韓国の国交が樹立され,1991年には韓国と北朝鮮の国連同時加盟が実現した。また,1992年には中国と韓国の国交が樹立された。
 一方,冷戦終結とともに,民族対立や宗教対立が噴出し,地域紛争が各地で展開されるようになった(ユーゴ紛争,チェチェン紛争,アフリカのルワンダやスーダンの内戦など)。また,最近ではイスラム原理主義勢力(IS)によるテロとの戦いが先鋭化している。

〔研究〕冷戦後の地域紛争 類題(お茶女附属平成29年度)
 冷戦終結が地域紛争に与えた影響について説明せよ。
(解答)ソ連崩壊によりソ連からの独立の動きや抑圧されていた民族間の対立が表面化し,また両大国からの軍事・経済支援の撤退により内部の主導権争いや利権対立が先鋭化した。
(解説)
 この問題を解答するためには,具体的な地域紛争を念頭におく必要があるとともにその原因を理解しておく必要がある。超難問である。具体的な地域紛争としては,チェチェン紛争(ロシアからの独立=ソ連への怨念),ユーゴ紛争(チトー後のさらなる民族対立の激化),アフリカ内戦(利権争い),ソ連のアフガン侵攻⇒ソ連軍の撤退⇒タリバン政権⇒ISの成立などを念頭におけばよい。

⑹軍縮へのあゆみ
①1963年,部分的核実験禁止条約(PTBT)を米・英・ソ間で締結。
②1968年,新たに核兵器保有国の出現を阻止する核拡散防止条約(NPT))が国連総会で採択され1970年に発効。
③1987年,中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)が米ソ間で調印され翌年発効。
④1991年,戦略兵器削減条約(STARTⅠ)が米ロ間で調印された(但し,93年に米ソ間で調印したSTARTⅡは未発効)。
⑤1996年,地下実験を含むすべての核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)が国連総会で採択された(未発効)。
⑥1997年,対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)が締結され’99年に発効。
⑦2010年,米ロ間で新STARTが調印された(’11年発効)。
 しかし,1998年にはNPTに加盟していないインドとパキスタンが核実験を行い,2003年にNPTを脱退表明した北朝鮮が2006年に核実験を行うなど,核拡散が完全に防止されているとは言いがたい状況である。  

〔研究〕核兵器保有国 類題広島大附属高校2017
 核拡散防止条約(NPT)を締約せず核兵器を保有している国を3つ答えよ。
(解答)インド,パキスタン,イスラエル
(解説)北朝鮮も核兵器を保有していると推測される。また,2003年にNPT脱退表明をしている。ただ,この脱退表明は北朝鮮の一方的表明であり,国際的にその脱退が承認されているわけではない。したがって,北朝鮮を解答にあげるのは妥当でない。


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社会科散策(政治)論述№18-国際連合 [政治]

5-2 国際政治②-国際連合

⑴国際連合の成立
 二度の世界大戦を起こした反省から,国際平和の維持と国際協調を目的として創設された国際機構が国際連合。1945年10月に,連合国を中心に51カ国で発足し,現在では,ほとんどの独立国が加盟している。

⑵国際連合のしくみ
 国際連合の本部はニューヨークにあり,❶総会,❷安全保障理事会,❸経済社会理事会,❹信託統治理事会,❺国際司法裁判所,❻事務局の主要機関からなる。

❶総会
 国連のすべての加盟国が参加し,原則として年一回開催。主権平等の原則に基づいて,総会では1国1票の多数決で決定される。ただ,重要事項は3分の2の特別多数決で決定される。
※重要事項(平和と安全に関する勧告,新加盟国の承認,予算事項など)
※平和のための結集決議(1950年)
 米ソ対立により,安全保障理事会で拒否権が乱発され,国連憲章の理念が生かされない状態に陥ったため,安保理に代わって,総会が平和維持の機能を果たすための勧告権(武力行使を含むが拘束力はない)を持つことができるようになった。
❷安全保障理事会
 国際平和と安全の維持を目的とする機関で加盟国は安全保障理事会の決議に従う義務がある。アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の5常任理事国と,2年の任期で選挙される10非常任理事国の合計15カ国で構成される。表決は原則として多数決(9カ国以上の賛成)で行われるが,手続事項を除く実質事項については,常任理事国に拒否権が認められている(常任理事国を含む9カ国以上の賛成)。安全保障理事会は,必要な場合には,経済制裁や軍事的な強制措置をとることができる。

〔研究〕安保理改革の必要性について。 類題(お茶女附属平成29年度出題)
 2005年の国連首脳会合で,安全保障理事会を早期に改革すべきであるという合意が成立したが,なぜ改革が必要なのか,その理由を2つ説明せよ。
(解答)①安保理構成国を増加させその地域バランスを図ることにより,意思決定の正当性を維持する必要があるから。
②紛争地域の拡大など国際情勢の変化に対応するためには,その解決に大きな影響力を有する国々の参加が必要だから。
(解説)
 外務省のHPには,国連加盟国が国連創設時の4倍近くまで増えたにも関わらず,安保理議席数にはほとんど変化がないこと,及びアフリカからの選出が少ないといった問題意識から,「2005年の国連首脳会合では安保理の代表性、効率性および透明性をより向上させ、またその実効性、正当性および安保理の決定の実施を強化するため、安保理を早期に改革すべきである旨が合意されました」とある。
 やや難しい言い回しだが,要するに,国連加盟国数が増えたのだから安保理選出国数も増やさないと安保理の意思決定に対する各国の納得(正当性)が不十分になるということ,そして,常任理事国の構成も国際情勢の変化にともないより実効あるものに変えていく必要があるということである。
 世界大戦は勢力均衡論の下で各国が軍拡を図り軍事同盟を結んだことが原因だとして,集団安全保障の考えにより創設されたのが国際連盟や現在の国際連合である。集団安全保障というのは,国際社会のルールに則り加盟国が結集して国際紛争を抑止しようとする安全保障体制である。しかし,国内政治のような統一権力を欠く国際政治のもとでは,国際ルールを設定して各国の主権を制限することはとても難しい。国連が有効に機能するためには,勢力均衡や大国の指導力(覇権)は無視できないのである(第一次世界大戦は勢力均衡の破綻の結果であり,国際連盟の失敗は大国(アメリカ)の不参加が原因であった)。

❸経済社会理事会
 経済・社会,文化・教育,人類の福祉などに関する国際問題を研究・勧告する機関で,総会選出の54カ国で構成される。国連の多くの専門機関がこの経済社会理事会に属している。
❹信託統治理事会
 住民が自立できず信託統治下にある地域の向上と独立の援助をはかることを目的とする機関。しかし,信託統治領は現在は存在せずその役割は終了している。
❺国際司法裁判所
 国家間の法律的紛争を裁判する国連の機関で,本部はオランダのハーグにある。当事国の同意がなければ裁判を始めることができない。
※竹島問題
 島根県の竹島問題で,韓国政府が国際司法裁判所への共同付託に応じなかったことから,日本政府は国際司法裁判所への単独提訴を検討していた。しかし,韓国が提訴に応じない以上,国際司法裁判所による解決は困難である。 
❻事務局
 国連が決めた計画や政策を実施する機関。その長である国連事務総長は,国際平和をおびやかす事項については安全保障理事会の注意を促すことができる。また,国際紛争の際には,その解決のために各国と折衝をするなど重要な役割を果たしている。従って,出身国や個人的利益のために行動したり,対立する国の一方に加担するような行動は許されない。
※国連事務総長(任期は5年だが2期10年が慣行となっている)
*歴代国連事務総長
 ①トリグブ・リー(ノルウェー)        1946~1952年
 ②ダグ・ハマーショルド(スウェーデン)   1953~1961年
 ③ウ・タント(ビルマ,現ミャンマー)      1961~1971年
 ④クルト・ワルトハイム(オーストリア)   1972~1981年
 ⑤ハビエル・デクエヤル(ペルー)     1982~1991年
 ⑥ブトロス・ガリ(エジプト)          1992~1996年
 ⑦コフィー・アナン(ガーナ)          1997~2006年
 ⑧潘基文(韓国)                2007~2016年
 ⑨アントニオ・グテーレス(ポルトガル)  2017年~ 
*国連事務総長の選出方法
 事務総長の選出方法について,国連憲章は「安全保障理事会の勧告に基づいて総会が任命する」と規定している。しかし,事務総長の選出も常任理事国の拒否権の範囲に含まれることから,いずれの大国にも支障のない人物が安保理の「密室」で選ばれてきた。そこで選出方法の透明性をはかるため,国連総会は2015年9月,事務総長候補者のヒアリングを行うことなどを盛り込んだ決議案を採択した。

⑶国際連合の活動
①平和と安全の維持
 国際連合憲章は,「武力による威嚇または武力の行使」禁じ,国際紛争を平和的手段によって解決することを定めている。これに違反する国に対しては,加盟国全体で制裁措置をとるという集団安全保障を掲げている(国連軍の派遣も可能だが,これまで正式に国連軍が組織されたことはない)。また,紛争の拡大を防ぐために,平和維持活動(PKO)を行い,地域紛争の解決にあたっている。
②生活向上のための国際協力
 国連は,経済社会理事会と連携協力している専門機関や総会の特別機関を中心に,開発途上国への援助(UNCTAD)・資金供与(IBRD),為替の安定・貿易の促進(IMF)などの経済対策のほか,発展途上国の児童の援助(UNICEF),難民の保護・救済(UNHCR),地球環境の保護活動(UNEP),人口問題(UNFPA),感染症の撲滅(WHO)などさまざまな国際問題にとりくんでいる。

〔研究〕経済社会理事会と連携協力する国連の専門機関のうち,世界銀行ともよばれ開発途上国への資金供与などを行なっている機関をアルファベットで答えよ。
(解答)IBRD
(解説)専門機関には国際労働機関(ILO),国連教育科学文化機関(UNESSCO),国際通貨基金(IMF),国際復興開発銀行(IBRD),世界保健機関(WHO)など17の機関がある。ほかに,総会が設置した特別機関に,国連貿易開発会議(UNCTAD),国連児童基金(UNICEF),国連難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連大学(UNU),国連環境計画(UNEP),国連人口基金(UNFPA)などがある。

〔研究〕国連の機関 類題(お茶女附属平成27年度)
①国連教育科学文化機関をアルファベットで答えなさい。
②国連難民高等弁務官事務所の高等弁務官を1991年から2000年の間つとめた日本人は誰か,答えなさい。⇒緒方貞子
③国連の軍事参謀委員会とテロ対策委員会は国連のどの主要機関の補助機関か,答えなさい。⇒安全保障理事会

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社会科散策(政治)論述№17-国際法 [政治]

6-1 国際政治①-主権国家,国際法    

1.主権国家
 国家が対外的に独立を保つ権利を❶主権という。この主権の確立している国が独立国(主権国家)である。現在,地球上には,200 近い❷独立国がある。

❶主権には3つの意味がある。
 ①立法権・行政権・司法権を総称する統治権,②国家が対外的に独立を保つ権利,③国の政治のあり方を最終的に決める力または権威の3つ。主権国家という場合の主権は②の意味である

〔研究〕憲法前文第1段の「ここに主権が国民に存することを宣言し」にある主権とはいかなる意味か。 類題(愛光高平成27年度)
〔解答〕国の政治のあり方を最終的に決める力または権威という意味である。

❷世界の独立国家
 外務省の統計によると,196か国(2019年3月現在)。これは,現在,日本が承認している国の数である195か国に日本を加えた数。北朝鮮は国連に加盟しているが日本は承認していない。国連加盟国数は 193カ国。
 国家の主権(統治権‥上記①の意味)が及ぶ範囲を領域といい,領土,領海,領空からなる。海岸から12海里が領海とされ,領土・領海の上空の大気圏内が領空とされている。また,領海の外に排他的経済水域(EEZ)が設定され,海岸から200 海里以内では,その水域の水産資源・地下資源に対する管轄権が沿岸国に認められている。

※無害通行権について 類題(大阪教育大附属池田平成29年度)
 大阪教育大附属池田の問題は,選択問題の選択肢の一つとして問われたものである。中国の公船(軍艦含む)の領海・領空侵犯,接続水域への侵入が最近エスカレートしていることから,領海への無害通行権についても一応の理解は必要であろう。
⇒領海は,沿岸国の主権が及ぶ領域であるが,海上交通の便宜のため,「すべての国の船舶は,他国の領海において無害通行権を有する」(国連海洋法条約17条)という例外規定が存在する。無害通行とは,沿岸国の平和,秩序または安全を害さない通行をいう(同19条1項)。その無害性の判断については,19条2項に無害とはみなされない行為が列挙されている。例えば,武力の威嚇又は行使,軍事演習,情報収集,測量調査,汚染行為,漁獲行為など。また,通行の具体的な方法や沿岸国の権限についても別途規定が置かれている(18条2項,20条,21条,22条,24条,25条,26条)。
 軍艦にも商船と同様な無害通行権が認められるかについては諸国間に対立がみられる。軍艦の領海航行については事前許可を求める国もあるが,欧米先進国は船舶の種類ではなく通行の態様で無害性を判断すべきだとする。
 尚,領空のいわゆる無害飛行権については,1919年のパリ条約・1944年の国際民間航空条約で,各国に国家の排他的主権を認めている(無害飛行権は認められていない)。

2.国際法
 国際社会における国家間のルールが❶国際法で,その基礎を築いたのはオランダの❷グロチウスである。

❶国際法には,国際社会で広く行なわれている慣習を各国が法として認めた国際慣習法と,文書による国家間の約束である条約の2種類がある。
❷グロチウスはオランダの自然法の学者で,その著「諸国民の法」,「海洋自由論」,「戦争と平和の法」が国際法の起源とされている。彼は,「自然法の父」「国際法の父」と呼ばれている。
 しかしながら,国際社会には,各国の上位にたって国際法を実際に強制する権力がなく,国際法の実効性は国内法ほど強いものではない。強いてあげれば国際連合(国連)だが,現在の国連(安保理)は大国の思惑に大きく左右され,その問題解決能力は乏しい。


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社会科散策(政治)論述№16-地方自治 [政治]

5-4 統治機構④-地方自治

1.地方自治
 『❶地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,❷地方自治の本旨に基いて,法律でこれを定める』(92条)。

「地方公共団体」とは
 地方自治を行う都道府県や市町村を地方公共団体(地方自治体)という。地方公共団体には,おもな機関として首長と地方議会がおかれている。

〔研究〕東京特別区(23区)は地方公共団体か。
⇒最高裁はこれを否定したが,区長公選制の復活により地方公共団体に含める見解が多い。
⑴地方議会(議員の任期4年,被選挙権25歳以上)
 地方議会には,市町村議会と都道府県議会があり,それぞれ議員は住民の直接選挙によって選ばれる。地方議会のおもな仕事は,条例の制定・改正・廃止,予算の議決,決算の承認など。
※条例は「法律の範囲内」で制定できる(94条)。
 「法律の範囲内」については,憲法が法律事項としているものを条例で定めることができるか,法律と抵触・競合する場合はどうするかが問題となる。ここは,地方自治の考え方が反映されるが,自治体の事務については,地方自治の本旨を重視した解釈をすべきであろう。この点,最高裁は,「条例が法律に違反するかどうかを判断するには法律と条例の規制対象や規制文言を対比するだけでなく,それぞれの趣旨・目的・内容・効果を比較すべきである」と判示。

⑵首長(任期4年,被選挙権=知事30歳・市町村長25歳以上)
 首長は地方公共団体の執行機関で,市町村長と都道府県知事がそれにあたる。首長も住民の直接選挙で選ばれる。首長は,議会で決まったことを実行に移すほか,予算や条例案をつくって議会に提出したりする。また,地方行政の最高責任者として,役所の職員などの公務員を指揮・監督する。
 補助機関として,首長(知事・市町村長)を補佐する副知事・副市町村長,会計事務をつかさどる会計管理者が置かれている。

⑶首長と地方議会との関係
 首長と地方議会は,互いに独立しており,また,内閣のように議会から生まれるという関係にもない。そこで,首長制と呼ばれている。

〔研究〕首長制の特徴について述べよ。
〔解答〕①首長公選制,②首長の拒否権(再議請求),③議会の首長不信任決議,④首長の議会解散権がその特徴としてあげられる。
(解説)
 首長制は大統領制(①と②)と議院内閣制(③と④)をミックスした制度である。
⑷地方公共団体のしごと
 地方公共団体のしごとは,社会福祉,教育,生活環境の整備,廃棄物やゴミの処理など広範囲にわたる。地方公共団体の事務には,各自治体の事務である「自治事務」と,国(又は都道府県)の事務であるが,その執行が自治体(都道府県又は市町村)に委託された「法定受託事務」(例えば,戸籍事務・旅券の交付など)がある。 

「地方自治の本旨」とは
 地方の自治の本旨とは住民自治と団体自治の二つの要素を含む。住民自治とは地方の政治が住民の意思に基づいて行われること,団体自治とは地方の政治が地方公共団体みずからの意思と責任でなされるとことを意味する。この地方自治の本旨に反するような法律などは憲法違反として無効となる。

〔研究〕地方自治は『民主主義の学校』といわれているが,その意味を簡潔に答えなさい。
〔解答〕民主主義の精神は,地域社会や身のまわりの問題を解決するなかで培われていくという意味である。
(解説)
 民主主義という言葉は多義的であるが,ここでは自治(政治参加と自立)の精神の意味である。イギリスの政治家ブライスの言葉と言われている。

〔研究〕戦前にも地方自治はあったのか。
⇒戦前は,大日本帝国憲法に地方自治に関する規定はなかったものの,市制・町村制,府県制・郡制がしかれていた。しかし,これらの地方制度は,中央集権体制の下での近代化を図ろうとする明治政府の出先機関にすぎず,府県知事は国の官吏とされていた。住民自治・団体自治をその本質とする地方自治が実現するのは,戦後の日本国憲法の制定以後である。

2.住民の権利(直接請求権)
 地方自治については,国の政治とちがって,住民に多くの直接請求権が認められている。
①条例の制定・改廃請求(イニシアティブ) 
 有権者の50分の1以上で首長に請求⇒首長が議会にかけその結果を公表する
②(事務)監査請求(イニシアティブ)    
 有権者の50分の1以上で監査委員に請求⇒監査結果の公表・議会・首長への報告
③議会の解散請求 (リコール)   
 有権者の3分の1以上で選挙管理委員会に請求⇒住民投票(過半数の同意で解散)
④議員・長の解職請求(リコール) 
 有権者の3分の1以上で選挙管理委員会に請求⇒住民投票(過半数の同意で解職)
⑤主要役員の解雇請求(リコール)
 有権者の3分の1以上で首長に請求⇒議会で議員2/3 以上出席,その3/4 以上の賛成で解雇

3.地方財政                     
⑴おもな歳入(2017年度)
①地方税(45.1%)
 都道府県税,市町村民税,事業税,固定資産税など。
②国からの補助
 地方交付税交付金(21.9%),国庫支出金(15.6%)など。地方交付税交付金は地域間の格差を是正するために国から地方公共団体に交付するもので,その使い途は自由。国庫支出金は国からまかされた仕事についての国から補助金。
③地方債の発行(10.6%)
 地方公共団体が発行する公債(借り入れ)でその半分以上は国からの借金。
※三割自治
 地方公共団体の自主財源(地方税など)が3~4割程度しかなく,自治体収入の多くを国の補助金(地方交付税交付金・国庫支出金)に頼っている状況を表現した言葉。

〔研究〕いわゆる三割自治の問題性を簡単に答えなさい。
〔解答〕財源の多くを国に頼るということは国の関与を受けるということであり,それだけ地方自治の実現が難しくなるということである。

⑵おもな歳出
 学校や図書館などに使われる教育費,道路や橋の建設に使われる土木費,公務員の給与関係費,地方債の返済に使われる公債費,社会福祉に使われる民生費など。
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社会科散策(政治)論述№15-裁判所 [政治]

5-3 統治機構③-裁判所

1.裁判所と司法権
 『すべて❶司法権は,❷最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する』(76条1項)。

司法権
 法に基づいて紛争を解決することを裁判といい,その権限を司法権という。
最高裁判所と下級裁判所
 最高裁判所は東京に一カ所しかないが,下級裁判所には,高等裁判所(全国に8カ所),地方裁判所・家庭裁判所(50カ所),簡易裁判所(438カ所)の4種類がそれぞれ設けられている。
 裁判所は,それを構成する裁判官の数によって,合議制と単独制とに分けられる。最高裁は,常に合議制で大法廷(15名全員)と小法廷(5名)に分けられる。高裁も合議制(3名又は5名),地裁・家裁は単独制が原則(例外3名),簡裁は常に単独制である。
                    
2.三審制
 裁判は,事件の内容によって,まず地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所のいずれかで行われる。これを第一審という。その裁判に不服であれば上級の裁判所に控訴して第二審を受けることができる。その裁判にも不服であった場合にはさらに上級の裁判所(※)に上告して,第三審を申し出ることができる。このように,一つの事件について3回の裁判を求めることができるしくみを三審制という。
※通常は最高裁だが,民事では高裁が上告審となる場合がある

〔研究〕真犯人が見つかるなど「あらたな証拠」(刑訴法435条6号)が出てきた場合でも,裁判確定後はもはや救いようがないのか。類題(お茶女附属類題平成25年度)
〔解答〕裁判確定後は再審請求することができる。
(解説)
 再審請求は,判決の事実認定に誤りがあった場合に被告人救済のために行なわれる。従って,無罪判決に対して再審請求することはできない。また,「あらたな証拠」には事実認定(有罪判決)に合理的な疑いを生ぜしめる「明白性」が必要となる。

3.民事裁判と刑事裁判
 民事裁判は,交通事故で被った損害の賠償を請求したり貸した金銭の返還を求めるなど,私人間の争いに対する裁判である。民事裁判では,裁判所に訴えた人が原告となり,訴えられた人が被告となる。担当裁判官は,両者の主張をよく聞き,証拠を調べたうえ,法に基づいて判断をくだす。
 刑事裁判は,犯罪事実について,有罪・無罪を判断し,有罪と判断したときにはその刑罰を決める裁判をいう。刑事裁判では,検察官が罪を犯したと疑われている者(被疑者)を裁判所に起訴する。起訴された者を被告人という。
 裁判では法律や訴訟手続についての専門知識が必要となる。そこで,裁判では弁護士が訴訟代理人(民事)・弁護人(刑事)となるのが通常である(必要的弁護事件以外は弁護人なしに裁判を行なうこともできる)。
※行政訴訟
 行政機関を相手に国民が訴える訴訟を行政訴訟といい,広い意味では民事裁判に含まれる。

4.刑事事件と人権
①令状主義
 警察や検察の捜査では,裁判官の発する令状がなければ逮捕や家の捜索はできない。その理由は,公平な第三者(裁判官)に逮捕・捜索の理由と必要性を判断させるためである。
②黙秘権の保障
 自己に不利益な供述の強要は禁止される。イギリスのコモンローや米憲法に由来すると言われているが,その理由の説得的論証は難しい。自白強要・自白偏重⇒人権侵害につながることがその理由か。なお,最高裁は氏名や交通事故における事故報告は不利益供述(黙秘権侵害)とはならないとする。
③不任意自白の不許容
 拷問などをして無理やり自白させてもそれを証拠として使うことはできない。その理由は,拷問などの違法な取り調べをさせないようにするためである(違法捜査抑制説)。
④無罪の推定
 裁判においては,被告人は有罪判決を受けるまでは,無罪と推定される,すなわち,有罪の挙証責任は検察官にあり,有罪判決が出るまでは被告人を犯罪者扱いしてはいけない。
⑤公平な裁判所,迅速な裁判,公開裁判の保障
 被告人には「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」が保障されている。
⑥証人審問権,弁護人依頼権の保障
 証人審問権とは反対尋問権のこと。自己に不利益な供述をする証人に対して反論の機会を与えないのはフェアではないからである。また,互いの主張をぶつけ合うことで真実が浮かびあがるという訴訟哲学がある。
⑦刑事補償
 拘禁されていた被告人が裁判で無罪の判決を受けたときは,国に対し補償を請求することができる(刑事補償)。
⑧再審制度
 裁判が確定しても,無実の有力な証拠が出てきた場合は,裁判のやり直しを求めることができる(再審)。

5.司法権の独立
 『すべて裁判官は,❶その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。』(76条3項)

❶裁判が公正に行われるためには,裁判に対する圧力や干渉を排除し,公正な立場を確保することが必要となる。そこで,日本国憲法は裁判官に対して,憲法・法律に従うほかは,だれの指図も受けず,自分の良心にのみ従い裁判するように求めている。
❷裁判官が独立して公正な裁判を行うためには,裁判官の身分が十分保障されていなければならない。そこで日本国憲法は,裁判官は心身の故障による場合と,弾劾裁判所による裁判を除いて罷免されないと定めている(78条)。
※最高裁裁判官については,そのほかに国民審査の制度がある。また,裁判官には定年制がある(最高裁・簡裁は70歳,他は65歳)。

6.最高裁判所裁判官の国民審査
 最高裁判所の裁判官の任命については,『その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し,その後10年を経過した後初めて行はれる衆議院議員選挙の際更に審査に付し,その後も同様とする』(79条2項)。   
 この国民審査の制度は,内閣による裁判官の任命に対して民主的コントロールを及ぼすことを目的としているが,その性質は国民が裁判官を罷免する解職制度(リコール)と考えられている。国民審査の方法は罷免を可とすべき裁判官に×印を付し,×の投票が過半数を超える場合に罷免が成立する。

7.違憲立法審査権(違憲法令審査権)
 『最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である』(憲法81条)。

①憲法は国の最高法規であるから,憲法に違反する法律・命令・規則・処分などはその効力を有しない(98条1項)。日本国憲法は,それらが憲法に違反していないかどうかを判断する権限を裁判所に与えた。これを違憲立法審査権あるいは違憲法令審査権という。
②裁判所は裁判で実際に争われている具体的な事件を通して違憲立法審査権を行使する。
③この権限は最高裁判所だけでなく,下級裁判所にも与えられている。ただ,最高裁判所は合憲か違憲かの最終的な決定権をもつので,とくに「憲法の番人」とも呼ばれている。

〔研究〕日本国憲法上の権力分立のもつ意義を,裁判所の役割を中心に述べなさい。類題(戸山推薦入試平成15年度)
〔解答〕権力分立制とは,国家の権力作用を立法・行政・司法に分離してそれぞれ国会・内閣・裁判所に担当させ,それらを相互に抑制・均衡させることにより,権力の濫用による人権侵害を防止しようとする制度である。日本国憲法は,国会と内閣に密接な関連をもたせる議院内閣制を採用しており三権を厳格には分離していないが,裁判所に違憲立法審査権を与えて,立法・行政の違憲的行為に対する司法統制を図っている。すなわち,裁判所に,具体的な事件を通して,国会や内閣の行為が憲法に違反していないかどうかを判断させ,権力の抑制と均衡の確保を図っているのである。
(解説)
 権力分立のもつ意義は,国家権力作用を三つに分立させ,相互に抑制・均衡させることで,人権保障を全うさせることにある。しかし,日本国憲法は議院内閣制を採用しており,アメリカのように厳格な権力分立とはなっていない。そこで権力分立の意義を実現するために,裁判所の役割が重視されることになるわけである。その最も重要な役割が違憲立法審査権であり,それを行使することにより,裁判所は,国会・内閣の違憲行為を抑制し人権保障を確保することになるのである。ただ,違憲審査権の行使は具体的事件を解決する限度でのみ認められなければならない。具体的事件に関わりなく認めてしまうと,今度は裁判所の権力が優越してしまい,権力分立の意義が損なわれることになるからである。
 本問は,単に権力分立の意義を問うのではなく,議院内閣制を採用した日本国憲法下での裁判所の役割の重要性を考えさせる問題である。

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社会科散策(政治)論述№14-内閣 [政治]

5-2 統治機構②-内閣

1.行政と内閣
 『❶行政権は,❷内閣に属する』(65条)

行政とは
 国会が決めた法律や予算に基づいて国の政治を行うことを行政という。この行政には,治安・防衛・外交をはじめ産業経済・教育・社会保障など,国会と裁判所が行う以外の国のしごとがすべて含まれる。
内閣の構成
 内閣は,内閣総理大臣とその他の国務大臣により構成され,内閣のしごとの方針は内閣総理大臣とすべての国務大臣が参加する閣議で決められる。

〔研究〕内閣総理大臣が国務大臣を任命するときに憲法に定められている条件を2つあげよ。 
〔解答〕①その過半数は国会議員の中から選ばれなければならない。②文民でなければならない。
(解説)
 ①は議院内閣制にもとづく規定である。②の「文民」は,軍隊に対する文民統制(シビリアンコントロール)に由来するもので,その本来の意味は(職業)軍人でない者である。しかし,軍人を認めない日本国憲法の下で,文民を軍人でない者としたのでは規定した意味がないことになる。つまり,日本に軍人がいないのに,軍人でない者を国務大臣にしなさいと規定しても無意味である。そこで,軍隊としての性格をもつ自衛隊に対する文民統制を考慮して,文民とは「自衛隊員でない者」と解釈されている。
※文民統制(シビリアンコントロール)
 ①政治と軍事の分離,②政治の軍事に対する優位,③軍事に対する民意の反映といった意味をあわせもつ。要するに,軍事組織から国民および民主政治を守るための思想・制度といえる。

〔研究〕文民統制 類題(平成31年東海高校)
 自衛隊の最高指揮権は内閣総理大臣が有しているが,これは何という原則にもとづいているか答えよ。
〔解答〕文民統制またはシビリアンコントロール 
(解説)上記参照。

〔研究〕独立行政委員会(行政委員会)は65条に違反しないか。理由をあげて答えよ。
〔解答〕公正取引委員会など行政委員会の職務は,内閣のコントロールになじまず司法作用と同様その独立性が要求されるから,内閣の指揮監督に服さなくても憲法(65条)には違反しないと考える。
(解説)
 人事院,公正取引委員会,国家公安委員会などの行政委員会は その職務を行うにあたっては内閣から独立して活動している。これらの行政委員会の活動は政治的中立が要請され,政治的・党派的決定になじまないことから,内閣や国会の指揮監督を受けなくても憲法違反(65条)とはならないと解されている。

2.議院内閣制
 内閣が,国会の信任に基づいてつくられ,国会に対して連帯責任を負う制度を,議院内閣制という。これは,内閣と国会との間に密接なつながりをもたせる制度で,イギリスなどで発達してきた制度である。

〔研究〕議院内閣制に基づく憲法上の規定をあげなさい。
〔解答〕まず,内閣は国会に対して責任を負うとされ(66条3項),衆議院は内閣不信任決議権を有し,不信任によって内閣は総辞職しなければならず(69条),たとえ内閣が衆議院を解散しても,総選挙後の国会召集時に内閣は総辞職しなければならない(70条)。また,内閣の形成に関して,内閣総理大臣は国会の議決で指名され(67条1項),内閣総理大臣および他の国務大臣の過半数は国会議員から選ばれなければならない(67条1項,68条1項)。さらに,議案の提出,国務の報告(72条),大臣の議院出席(63条)なども議院内閣制に関連する。

〔研究〕大統領制と議院内閣制との本質的な違いは何か。アメリカと日本の制度を念頭に説明せよ。類題(平成31年同志社高校・平成31年大阪教育大附属)
〔解答〕ともに権力分立を基礎とする制度だが,大統領制は三権を厳格に分離しているのに対し,議院内閣制は立法府と行政府との間に密接な関係を有する制度である。アメリカの大統領は国民の選挙(間接選挙)で選ばれるのに対して,日本の総理大臣は国会が指名する。従って,大統領と議会の関係は薄く,議会に大統領に対する不信任決議権はなく,また,大統領に議会解散権はない。

〔研究〕衆議院で内閣不信任が可決されたとき,内閣あるいは内閣総理大臣がおこなう憲法上の対応策を答えよ。
〔解説〕①衆議院の解散を閣議で決定すること。②内閣総辞職を閣議で決定すること。③内閣総理大臣が辞職すること。
(解説)
 衆議院の解散権は内閣にあり(7条),内閣総理大臣に解散権があるわけではない。従って,閣議決定(全員一致)が必要となる。ただ,内閣総理大臣はいつでも反対する国務大臣を罷免できることから,政治上,首相の専権事項とされているだけである。内閣総辞職も閣議で決定される。ただ,内閣総理大臣の辞職は,必然的に内閣の総辞職を伴う(70条)から,閣議決定が不要な場合もありうる。従って,「内閣総理大臣が辞職すること」も正解となる。

3.内閣の権限
 内閣は,行政権の中心として広い範囲の行政権を行使する。
※憲法第73条(内閣の職務)
一 法律を誠実に執行し,国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し,事前に,時宜によっては事後に,国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ,官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること。但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない。
七 大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除及び復権を決定すること。
 そのほか,国会の召集,最高裁判所長官の指名,最高裁判所のその他の裁判官の任命,下級裁判所裁判官の任命,天皇の国事行為に対する助言と承認,国会及び国民への国の財政状況の報告,決算の国会への提出などがある。 
※衆議院の解散権も内閣にある(7条説)。

4.内閣総辞職
 内閣総辞職とは,内閣の構成員全員が同時に辞職することをいう。内閣は自発的に総辞職することもできるが,総辞職が必要な場合として次の場合がある。
①衆議院で不信任決議案が可決されたのち,10日以内に衆議院が解散されなかったとき(憲法69条)
②内閣総理大臣が,死亡,失踪,亡命など,「欠けたとき」(憲法70条) 
③衆議院議員総選挙後に初の国会が召集されたとき(憲法70条)

〔研究〕衆議院の選挙が行われた後の国会(特別会又は臨時会)で,内閣総辞職が行われ,新しい内閣が作られるのはなぜか。類題(2019年熊本県高校入試問題)
〔解答〕内閣は国会に対し連帯責任を負い,国会(又は衆議院)の信任が内閣の存立ために必要だからである。
(解説)衆議院解散または任期満了により総選挙が行われた後に国会(特別会・臨時会)の召集があったときは,新しい民意に基づく新しい衆議院が構成されたことになるから,あらためて内閣総理大臣が指名され,それに基づいて内閣が作られなければならない。
 衆議院の解散あるいは任期満了から総選挙を経て国会(特別会又は臨時会)が召集されるまでの最大70日の期間(40+30)衆議院は存在しないことになるが,その間も従来の内閣が行政権を行使する。また,内閣が総辞職した場合には,「内閣は,あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ」(71条)。
 
5.行政と国民生活
⑴行政権の肥大化と優越
 今日,行政の活動は,産業・経済の発展,公共施設・社会保障の充実,環境保全・公害規制,教育・文化の向上など,さまざまな分野に及んでいる。このように行政の活動が広くなると,権限や費用,人員など行政の規模は大きくなり,またその内容も複雑になってくる(行政の肥大化)。そうすると,国会が定める法律は,大まかなことだけを定め,実施のしかたは,行政機関の定める命令や規則に委ねざるをえなくなる。これは,国の政治の中心が立法機関から行政機関に移っていることを意味する(行政権の優越)。
⑵行政権に対する民主的コントロール
 行政権の優越は民主政治をゆがめる危険がある。しかし,国民へのサービスを充実させるためには,これを否定することはもはやできなくなっている。したがって,今後は,肥大化し優越化した行政権をどのようにコントロールしていくかが重要な課題となる。


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社会科散策(政治)論述№13-国会 [政治]

5-1 統治機構①-国会

1.国会の地位(第41条)
 国会は『国権の最高機関であり,国の「唯一の立法機関』
 これは,国会が国民の意思を代表する機関であることから,国会は国の政治の中心的な機関であること,そして,国会だけが法律の制定や改正・廃止をする権限をもっている立法機関であることを示している。
※最高機関といっても,国会が内閣や裁判所よりも上位の地位(支配・従属関係)にあるという意味ではない。これは権力の抑制と均衡により人権保障を図ろうとする憲法の考え方からいって当然のことである。もちろん,国会を「国権の最高機関」と規定したことに何らかの法的意味を与えることも可能だが(権限機関不明の場合の権限の推定規定と捉えるなど),「最高機関」から演繹的に法的効果を導くことには異論も多い(樋口陽一ほか)。

2.国会の組織
⑴二院制(第42条)
 『国会は,❶衆議院及び❷参議院の❸両議院でこれを構成する』

❶衆議院〔465名,小選挙区289・比例代表区176,任期4年(解散あり),被選挙権25歳以上〕
❷参議院〔245名,選挙区147,比例代表区98,任期6年(3年半数改選),被選挙権30歳以上〕※2019年7月現在
❸両議院は原則として同時に活動,それぞれ独立して活動(例外として「両院協議会」)

〔研究〕参議院の存在理由について説明せよ。
 参議院設置の理由は,①衆議院の多数派のみによって国政が専断的に行なわれることを防止する,②国民の多様な意見を代表させ「良識の府」としての役割を果たさせること,③衆議院の解散中の緊急事態に対処するために第二院が必要であることなどがあげられている。
(解説)
 「第二院は,第一院と一致すれば無用であり,第一院と一致しなければ有害である」(シェイエス)と批判される。参議院がその存在意義を発揮するためには,衆議院とは異なった議員構成を考える必要がある。衆議院の単なるコピーでは存在意義はほとんどないことになる。

⑵委員会制度
 各議院にそれぞれ常任委員会,特別委員会(必要に応じて)。
 議案等の実質的で効率的な審議を確保するためにアメリカにならって導入(憲法上の制度ではない)。

3.国会の活動
⑴常会・臨時会・特別会
 活動期間の違いにより,❶常会,❷臨時会,❸特別会が区別される。

常会(通常国会)は毎年1回召集される(1月中)。
臨時会(臨時国会)は必要に応じて内閣が臨時に召集。ただ,いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば,内閣はその召集を決定しなければならない。
特別会(特別国会)は衆議院解散・総選挙後30日以内に召集される。

〔研究〕いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があったにもかかわらず内閣が臨時会を召集しなかった場合,どうなるのか。
〔解答〕憲法53条により,内閣は臨時会召集決定の法的拘束を受け,召集の決定をしないことは憲法違反となる。ただ,これに対する制裁措置は存在しておらず,また,裁判所の介入も憲法裁判所の制度をとっていない以上難しい。従って,法的拘束力があるといっても実効性はない。
(解説)
 2015年10月,安倍内閣は衆議院の臨時会召集要求に対して,外遊日程を理由にこれを拒否したが,そのような理由で憲法違反行為を行なってもよいのかは疑問である。

⑵参議院の緊急集会(憲法54条2項)
 衆議院が解散されると,国会は,総選挙後に特別会が召集されるまで停止する。この間の緊急事態に対処するための制度が参議院の緊急集会。『緊急集会において採られた措置は,臨時のものであつて,次の国会開会の後十日以内に,衆議院の同意がない場合には,その効力を失ふ』(憲法54条3項)。

⑶会議の原則
①定足数
 会議体が議事を行い,議決をなすために必要な最小限度の出席者の数。『両議院は,各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ,議事を開き議決することができない』(56条1項)。
②表決数
 会議体が意思決定を行うに必要な賛成表決の数。憲法で特別の定めのある場合を除いて,『出席議員の過半数でこれを決し,可否同数のときは,議長の決するところによる』(56条2項)

4.国会の権能
⑴法律の議決権
 法律は,国民の自由や権利を制限したり,あるいは保護・援助するために制定される。 
★法律案の議決における衆議院の優越
 衆議院で可決し参議院でこれと異なった議決をした場合,衆議院の可決後参議院が60日以内に議決しない場合⇒ 衆議院は参議院が否決したものとみなせる 
 衆議院の主導により,3つの方法がある。①両院協議会の開催(各議院から各10=計20で組織),②衆議院での出席議員の三分の二以上の再議決,③廃案
⑵予算の議決権
 予算の財源はおもに国民の税金である。その規模や使い途は国民の生活に大きな影響をあたえる。そこで,予算を決めるのは国民の代表機関である国会とされている。但し,予算を作成し提出することができるのは内閣だけ。       
★予算の議決における衆議院の優越
 衆議院で可決し,参議院でこれと異なった議決をした場合 ⇒ 両院協議会(必要的)
 衆議院の可決後,参議院が30日以内に議決しない場合   ⇒ 自然成立
⑶条約の承認権
 憲法73条3号は,条約の締結権を内閣に与えているが,『事前に,時宜によっては事後に,国会の承認を経ることを必要とする』。これは,条約の締結は国民の利益に影響することから,国会の関与が必要と考えられたためである(事前承認が原則)。
★条約の承認における衆議院の優越
 予算の議決の場合と同じ。ただし,予算のような衆議院先議はない。
⑷内閣総理大臣の指名 
 『内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決で,これを指名する』(憲法67条)。→議院内閣制
★内閣総理大臣の指名における衆議院の優越
 衆議院で可決し,参議院でこれと異なった議決をした場合 ⇒ 両院協議会(必要的)
 衆議院の可決後,参議院が10日以内に議決しない場合   ⇒ 自然成立 
⑸弾劾裁判所の設置 
 『国会は,罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため,両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける』(憲法64条)
 罷免事由には,著しい職務上の義務違反・職務怠慢・裁判官としての威信を著しく失うべき非行がある。弾劾裁判所は,各議院からそれぞれ7人ずつ選出される裁判員で構成されるが,国会から独立してその職務を行う。
※国会にあるのは設置権限のみであり,弾劾裁判自体を行なう権限はないことに注意。 
⑹憲法改正の発議権
 『各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない』(憲法96条1項)
※議院の権能 
 両議院が協同して行使するのではなく,それぞれ独自に行使する権能として,法律案提出権,議院規則制定権,議員懲罰権,国政調査権がある。

〔研究〕国会では衆議院の優越が認められているがそれはなぜか,説明しなさい。(50字前後)類題(お茶女附属平成24年度)
〔解答〕衆議院には解散があり,また議員の任期が4年と参議院より短く,より民意が反映されやすいと考えられているからである。56字
(解説)
 憲法上,衆議院に優越が認められているのは,法律・予算の議決,条約の承認および内閣総理大臣の指名の場合である。なお,予算については衆議院に先議権が認められている。
 また,予算議決・条約承認,首相指名は,早期の決着をはかる必要から,法律の議決より強い衆議院の優越が認められている。したがって,衆議院優越の理由には「円滑審議の要求」も含まれる。ただ,本試験では上述の〔解答〕の理由でないと点はつかないだろう。

〔研究〕成立する法律案の多くが内閣の提出によるものであり,議員提出法案は2割程度にとどまっているが,これはなぜか。
〔解答〕議会の多数派によって構成される内閣が提出する法案が否決されることは少なく,これに対して野党提出の議員立法は否決されることが多いからである。
(解説)
 国会議員は一人でも国会図書館や議院法制局の協力を得て法案を作成することが可能である。ただ,衆議院では20名以上、参議院では10名以上の賛成がないと提案することができない。さらに予算を伴う場合はそれぞれ50名、20名以上の賛成が必要となる(国会法56条)。

〔研究〕法律案の多くが内閣提出であることの憲法上の問題性を,簡単に説明しなさい。 80字前後 
〔解答〕内閣提出法案は,各省庁の官僚が発案・作成したものが大多数であることから,その数の増大は,官僚主導の政治を招き,唯一の立法機関である国会の役割が損なわれるおそれがある。83字
(解説)
 行政需要が増大し行政の肥大化が進んだ現代においては,政策の立案・作成のすべてを国会が決めることはもはや不可能で,行政の専門家集団(官僚)に委ねざるを得なくなっているのが実情である。しかし,そうすると国会を「唯一の立法機関」とした憲法の趣旨,即ち,国民すべてに適用される法律は国民の代表者が決めるべきだとする国民主権の原理(正当性)に反するのではないか,という問題が生ずる。
 この問題については,法律の発案・作成は官僚であっても,その成立には国会の議決が必要であるから,国会が「唯一の立法機関」であることを損なうものではないとの答えが用意されている。確かに,憲法違反とはいわないまでも,「唯一の立法機関」という国会の地位を考えると「全国民の代表」である国会議員による立法の増大が望まれる。
※議員立法の増大が民意を反映した政治といえるのだが,国会議員や官僚の現状(醜態)を見ると民意などどうでもよくなる。

5.国会議員の特権
⑴不逮捕特権
 『両議院の議員は,法律の定める場合を除いては,国会の会期中逮捕されず,会期前に逮捕された議員は,その議院の要求があれば,会期中これを釈放しなければならない』(憲法50条)
⑵免責特権
 『両議院の議員は,議院で行った演説,討論又は表決について,院外で責任を問はれない』(憲法51条)。

〔研究〕国会議員に特権が認められている理由は何か。 
〔解答〕不逮捕特権の理由は,政府の不当逮捕から議員の身体の自由を守ること,あるいは議院の審議権を確保することにある。免責特権の理由は,国会議員の独立性を確保し,議院における議員の言論活動を最大限に保障することにある。    

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